「千年の釘にいどむ」鍛冶師・白鷹幸伯展

  

えだまめ    イマナニ体験レポート

和釘鍛造の第一人者、白鷹氏の「野鍛冶」の世界。

みなさんこんにちは、えだまめです。
コロナ禍と寒さで外出をする元気が起きない日々ですが、先日「愛媛人物博物館」に行ってきました。

「え?どこ?」と思われる方でも、松山市上野町の「愛媛県生涯学習センター」と言えばピンとくるかもしれません。
生涯学習に関連した講座やイベントが色々開催され、研修や発表会などの会場で使われることが多い施設です。

現在、生涯学習センターに併設されている愛媛人物博物館で、冬季企画展「白鷹幸伯~鐡に千年の命を吹き込んだ鍛冶師~」が開催されています。
「鬼滅の刃」にハマっている私は、「鍛冶師かぁ、日本刀とかあるのかな?」位の気持ちでふらりと行ってみることに。

ところが、予想とは全く異なった「鍛冶師」の世界を覗くことになりました…!
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愛媛人物博物館1階入り口。入館無料です。
愛媛人物博物館1階入り口。入館無料です。 クイズスタンプラリーの用紙を発見。いい大人ですが参加します。 会場内の様子。刃物が並んでいると緊張感が漂います。 説明パネルやキャプションが多数。こちらは撮影OK。
恥ずかしながら、ご本人のこともその功績も知らないまま訪れた展覧会。
改めてご紹介しますと、白鷹幸伯さん(1935 -2017)は松山市出身で、「和釘」作りの第一人者として名をはせた方です。

薬師寺西塔の再建をはじめ、国宝室生寺や松山城、錦帯橋などたくさんの歴史的建造物の再建や修復に使用する和釘や鎹などの鍛造に携わっておられます。
経歴を見ると知っている建造物がずらり。

そう、白鷹さんは日本刀を鍛える「刀鍛冶」師ではなく、和釘や工具、包丁など庶民の生活道具を手がける「野鍛冶」師なのです。
そのため、本展では和釘や鎹などの他、くらしの中にある刃物類が並んでいました。

和釘とは、古くは飛鳥時代から神社仏閣・城郭などの建築物に使われてきた日本独自に発達した釘で、一本一本叩いて作られ(鍛造)ます。
そのため、職人としての技術や経験がとても大切になってくるそうです。
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生き物のように節をよけて曲がった和釘。
生き物のように節をよけて曲がった和釘。 薬師寺西塔再建用に鍛造した和釘。 奈良平城宮大極殿に鍛造した和釘。かなり大きくて太い! 工具の研究をまとめた図。 出雲大社から出土した古代工具を復元したもの。

千年先まで保つ釘を鍛える、職人としての誇りと熱量に圧倒される

鍛冶職人の家に生まれた白鷹さんは、上京して刃物専門店「木屋」で働きながら、休日に博物館などに足を運び、古代工具を「複製」ではなく「復元」したいと強く思っていたそうです。

商売としてではなく研究の対象として「古代工具」を鍛造していたことが縁となり、奈良の薬師寺西塔再建用の「白鳳和釘」の復元と約7000本の鍛造の仕事を得ることになったとのこと。

技術が発展した現代なら和釘を大量生産できるのでは?と思いましたが、むしろ逆なようで、現代使われている洋釘用の工業用の鉄では「1000年持たない」とのこと。

せ、1000年…!?
100年じゃなく、1000年…!?

さらには白鷹さんの「千年先に鍛冶職人がいて、こいつもやりよるわいと思ってくれたら嬉しいね」という言葉。
1000年前の釘を受け継ぎ、さらに1000年先にリレーする…。

日々だらだらと過ごしている私には衝撃的でした…。
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様々な形の包丁。「伊予型包丁」というものを初めて知りました。
様々な形の包丁。「伊予型包丁」というものを初めて知りました。 号は「興光」。跡を継いだ三代目の実名でもある。 古代工具の他に、ナイフや小刀など、様々な刃物を製作している。 大きな火ばさみは平城宮大極殿用の和釘鍛造の際に作成されたそう。
また、昔の純度の高い鉄を得るために大手鉄鋼メーカーが採算度外視で協力をしてくれたことや、昭和の名棟梁、西岡常一氏との出会いなど、白鷹さんの鍛冶師としてのキャリアに伴う人間模様が紹介されています。

印象的だったのが、璋子夫人との絆。
「夫人が亡くなって以降、東大寺大仏殿の古材で鍛造した包丁には「璋子印」の刻印を使用した」というキャプションとともに展示された包丁に心をうたれました。

展示を通して思ったことは、継続は力なりという言葉と、つながった縁を大切にしなければ、ということです。
人との出会いは誰にでも訪れるのだと思います。
ただ、その縁を切らないための熱量を持ち続けることができるのか、と自問自答してしまいました。
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亡き夫人の名の印を入れた包丁。夫人の満中陰志に用いられた。
亡き夫人の名の印を入れた包丁。夫人の満中陰志に用いられた。 法隆寺専属宮大工、西岡常一棟梁の指導の下で復元した古代工具。 江戸時代のタタラ炉で精錬した鉄を鍛えた鉄材で作られた包丁。 スタンプラリーの景品はゆるキャラがいっぱいのクリアファイル♪
白鷹さんは、当時の製造方法に限りなく近い原料や方法で何万本もの釘を鍛造する、という厳しい仕事を遂行してきた「職人」。
その姿は、小学5年生「国語」と高校「現代文B」で取り上げられています。

小学生と高校生、それぞれの年代で白鷹さんの仕事の様子や想いについての「学び」がある、ということですよね。
しかも、これらは別々の教科書会社の発行。これって凄いことだと思います。

たくさんの「縁」と自らの強い責任感で鉄に「千年のいのち」を吹き込んだ鍛冶師の姿とその作品が並ぶ、静かで、自分の生き方を見つめ直すことができる展覧会でした。

愛媛人物博物館では愛媛ゆかりの人物の功績や作品などが紹介されています。
バス路線の他、広い無料駐車場もあるので、また別の展覧会がある時に訪れてみようと思います。
冬季企画展『白鷹幸伯~鐵に千年の命を吹き込んだ鍛冶師~』
開催日/12月5日(土)~3月14日(日)
開催時間/ 9:00~17:30 定休日 月曜(祝日の場合はその翌日)
開催場所/愛媛県生涯学習センター内 愛媛人物博物館3階・企画展示室(愛媛県松山市上野町甲650)
駐車場/あり
料金/なし
問い合わせ先/愛媛県生涯学習センター TEL.089-963-2111
URL/https://i-manabi.jp/
reported by えだまめ