さいさいきて屋の生産者さんシリーズ Vol.5 ~絆の強さは柑橘と共に。日本をリードする愛媛の柑橘農家~

  

星歌子まい    イマナニ体験レポート

日本一!の多品種生産“柑橘王国”愛媛を育てる柑橘農家

2~4月は柑橘黄金期!
JAおちいまばりさいさいきて屋の売り場が、一段と鮮やかなオレンジ色で染まる時季です。

年明けから5月にかけて出荷される柑橘を“中晩柑(ちゅうばんかん)”と呼びます。
さいさいきて屋には、中晩柑をメインに、柑橘王国愛媛が誇る多品種の柑橘が「ここに無いものは無い!」と言うほどの品揃えで並びます。

今治市内、上島町から届いた“甘平(かんぺい)”“紅まどんな”“温州みかん”“伊予柑(いよかん)”“ポンカン”“デコポン(不知火)”“はるみ”“清見(きよみ)”“せとか”…そうそうたる品数はもちろん、一つの品種を取っても生産者さんによって違った美味しさを味わえるのがだいご味!

さて今回は今治の大西町で、“せとか”“紅まどんな”“甘平”“はるみ”を主に育てている生産者さん、尾崎さんご夫婦と、息子さんご夫婦のご一家を取材させて頂きました。

お話してくれたのは尾崎千里さん、息子さんご夫婦の尾崎薫さん、智美さんです。
約30アール(=3000㎡)の果樹園山で、今は出荷に向けて“せとか”を栽培しています。

尾崎さんの山には約300本の柑橘の樹が植えられています。
先だって“甘平”が収穫されたところ。

この日は、ピンクネルネットと言う越冬・霜よけのネットを被った“せとか”の実がたわわに成っていました。
“せとか”は“清見”と“アンコール”と言う柑橘を掛け合わせ、さらに“マーコット”を交配させて生まれた品種。
糖度14~15度、外の皮が薄く中の実はジューシー、実が皮いっぱいにぎっしり詰まった張りの良さが特徴の高級柑橘の一つです。

「“せとか”は繊細な柑橘やから、他の柑橘と比べて病気の予防も気が抜けんのよね」と千里さん。
千里さんと薫さんは、この日同行していただいたJA柑橘生産の指導員である田中さんとも、病気の予防法について熱心に話し込みます。

柑橘の樹木の寿命は40~50年だそう。
長く実を楽しめると言う印象をもちましたが、「樹の寿命が近づくと実の品質も下がってしまう」のだそうです。

“せとか”の群落から少し離れたところに、若い苗木が植わっているのを発見しました。
「これは4年目の苗木よ。5年目から少しずつ、実をつけることに慣らしていくんよ」。
その理由は、初めの4年間で苗木に幹や根などの成長に専念させるためです。

「1本の成木につける実の量も調整せんといかんのよ」。
ひとつの実への栄養を高めるため、1本の樹から獲れる収穫量と実の美味しさのバランスをとることも重要です。

尾崎さんの樹から獲れる“せとか”の実は、1玉2L(直径8~8.8㎝)~3L(直径8㎝~)。
「“せとか”は大きすぎても甘味が落ちるけんね。これくらいがちょうど美味しいんよ」と、千里さんは話してくれます。

取材に伺ったのは2月の中旬、今はネットを被った“せとか”ももうじき収穫を迎えます。
「収穫した柑橘は、獲れたてよりも1週間から10日ほど日を置いたときが食べごろですよ」と息子の薫さん。

さいさいきて屋にはちょうど美味しい食べごろになったものを搬入しています。
「おひとつどうぞ!」と、フレッシュな“せとか”をもいでいただきました。
今すぐほうばりたいですが、これは1週間後のお楽しみ…♪
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これが“せとか”。張りのある外皮、実が詰まってズシッと重い
これが“せとか”。張りのある外皮、実が詰まってズシッと重い こちらは“はるみ”。まろやかな甘味と酸味が上品。 左が千里さん、右が息子の薫さん あと1、2週間ほどで収穫に入る“せとか” 1週間後の収穫時。“せとか”の樹は他と比べて150~160㎝と低木。高さがない分比較的、収穫がラクなのだそう
続いて、ご自宅前にあるビニールハウスへと案内いただきました。
この中では“甘平”と“紅まどんな”を育てています。

まだ実をつけない苗木用のハウスと、現役の成木用のハウスとに分かれていました。
山での栽培を“露地栽培”、ハウスでは“ハウス栽培”や“施設栽培”と呼びます。

ハウス栽培の特徴は、露地以上に手間暇かけて育てること。
温度管理、水やり、防虫…これらを人間の手で行い、健康な樹木の育成と安定した生産量を高めます。

ここで「腕を上げたんですよ」と、披露してくださったのは息子薫さんの“枝吊り紐結び”。“枝吊り”とは、樹木にまんべんなく陽が当たって光合成がしやすいよう、枝を紐で吊って均等に広げる工夫のことです。

枝をどの方向に広げるかは、センスを要します。
薫さんは、枝吊り用の紐を綺麗に収納し、また結んだ紐も使いやすくほどける様工夫したりとアイディアも凝らしていました。

「尾崎さんのハウスの立地は日照量が格段に高いんですよ」とは、指導員さんの言葉。
この今治大西の地は、海のそばで暖かい潮風の吹く柑橘の育成に適した場所です。
その中でも尾崎さんのハウスは、日当たりの大変良い場所にあります。

「以前、このハウスの中でキウイを育てたことがあったんですけど、あまりの日照量の良さにキウイは枯れてしまいました」と、奥さんの智美さん。
「キウイには向かなかったけど、柑橘には抜群に良い立地ですね」と、指導員さん。
さらに「柑橘は日照量で美味しさが決まります。

日照量が多ければ、色づきも良くなり甘さが増します」と、指導員さんは続けてくれました。
「ハウスの立地条件によって、同じ品種でもアドバイスは異なります」。

水やりの頻度や温度管理、日光を地面から反射させて下からも太陽の光を当てる“マルチシート”を使うタイミングなど…。
ハウスの中でも、尾崎さん一家と指導員さんは、熱心に語りあっていました。
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尾崎さんの柑橘ハウス。苗木の養生用と成木用に分かれている
尾崎さんの柑橘ハウス。苗木の養生用と成木用に分かれている 苗木の枝吊り。上から降ろした紐で枝を吊っている。5年目の苗木 成木用のハウス。大人の背丈を抜くくらいに成長した、“紅まどんな”の成木 柑橘の枝には鋭い“棘”が生えている。収穫時に手を傷つけない様、手作業で棘を取り除く 指導員さんと情報交換、熱心な姿勢は自然と家族会議に

熱意あるところに絆あり

尾崎さんの山とビニールハウスを案内いただいた後、「ハウス栽培が向いている農家さんや、そうでない農家さんもいますから、わたし達はそう言ったことにも目を向けてアドバイスします」と、指導員さんからお聞きしました。

農家さんが持っている土地の特徴、露地栽培以上にハウスに手間暇を掛けられる余裕があるか、手間を必要とするが故に「ビニールハウスは自宅のそばに建てるべき」とも教えてくれました。

みかん農家としてベテランの千里さんにとっても、改良され誕生してくる品種の育成は新たな挑戦。
指導員さんからの様々なアドバイスに、息子さん夫婦とアイディアを出しあい家族会議が始まります。

今から10年ほど前、尾崎さんご夫婦は主流だった“温州みかん”から今の“せとか”や“甘平”などをメインに育て始めました。
世の中に高品質で多品種な柑橘が生まれ、私たち消費者が美味しい柑橘を堪能する裏側で、柑橘生産の技術は大変目覚ましく進歩しています。

農家さんはそんななかで、作物の世話と共に勉強の日々を送っています。
今日も、まだ商品名もない誕生したばかりの新品種の柑橘について生産者さんは学び、育成の条件を整えられるかを思案。
そしてそのときがくれば、安定した生産量を保ち、目新しい新商品で市場を賑わしてくれます。

実は、息子の薫さんは1年前に家業の農家に転職しました。
これまでも繁忙期には実家の農業を手伝ってきましたが、本格的に一からの就農となると知らないこと、判断のつかないことばかりです。

そんな新米、ベテランに関わらず生産者さん向けに、JAの指導員さんは毎週勉強会を開いています。
息子夫婦の薫さん、智美さんも講習会に参加します。

指導員さんは必要があれば現地に出向き、実際に目と肌を使って現状を分析。
熱意ある生産者さんと指導員さんの関係は、無くてはならないパートナーです。
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苗木の枝の広げ方や、剪定について話す指導員の田中さん
苗木の枝の広げ方や、剪定について話す指導員の田中さん 熱心に指導員さんと語り合う千里さんと薫さん 指導員さんが枝の剪定箇所をレクチャー。春枝、夏枝の見分け方も 尾崎さん宅の作業場。整理整頓された道具が印象的でした 出荷を迎えた“はるみ”の袋詰め。丁寧に品質をチェックして、さいさいきて屋へ
「お義父さん、お義母さんが積み上げてくれたお客さんとの信頼は、何ものにも代えられません。お義父さん、お義母さんの偉業にはとても感謝しています」と、智美さん。

4年前、収穫前の露地栽培の“せとか”を寒波が襲いました。
-3℃~-5℃の冷気が、収穫を待つ柑橘の実を凍らせてしまったのです。
外気で一度凍った柑橘は、中の水分が抜けスカスカ(す上がり)になったり、苦味が出てしまいます。

全ての実がそうなった訳ではないかもしれませんが、尾崎さん一家は「一つでも悪い状態の商品を売れば、お客さんの信用を得られなくなる」そう判断して、そのときの出荷は全て取りやめました。
「大切に育てた実を一つも出荷できなかったことは、本当にショックでたまりませんでした」と、ご一家。

「無事に収穫ができて、質の良い柑橘を出荷でき、全ての商品がお客さんに届くことが何より嬉しいです」と言う息子の薫さんの言葉。
さらに「身体を動かさんと良いもんはできんのよ。さぼりよったらできんのよ」と、お母さんの千里さんからも名言。

「農業は体力勝負。知恵と経験豊富な、お義父さんお義母さんが健康で、一緒に仕事をしてくれることが心からありがたいです」と、智美さんは言いました。
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声を掛け合い収穫に励む、尾崎さんご主人と息子夫婦の智美さん
声を掛け合い収穫に励む、尾崎さんご主人と息子夫婦の智美さん 一家で和気あいあいと収穫作業! 尾崎さんのお孫さんがデザイン、手作りしたPOP 大きい順に“かんぺい”“せとか”“はるみ”。全て尾崎農家さんの柑橘 1週間後、食べごろになった“せとか”は甘さとサッパリ感が絶妙!ゼリーの様にジューシーでした!
この10年、愛媛の数ある柑橘の品種は、みかんに慣れ親しんでいる県民の間にも斬新さをもって十分に浸透しました。
次々と誕生する目新しい品種も、JAおちいまばりのさいさいきて屋がお客さんの信頼に応える品質を見極めてお勧めすることで、たくさんのお客さんに人気を博してきました。

まだ暗い朝の6時、丁寧に袋詰めした柑橘を乗せて、尾崎さんの息子ご夫婦がさいさいきて屋へと出発します。
「私たち生産者は自信をもって柑橘をつくっていますので、ぜひこの美味しさを味わってみて欲しいです」と、奥さんの智美さん。

中晩柑・柑橘の黄金期であるこのシーズンは、1年で今だけ!
しかも、ひと月ふた月もすれば旬の品種も次々と入れ替わっていきます。

ぜひとも、さいさいきて屋に出向いて、美味しいヘルシーな柑橘の食べ比べを楽しんでみてくださいね!
さいさいきて屋
開催日/9:00~18:00 定休日 1月1日~1月3日
開催場所/さいさいきて屋(愛媛県今治市中寺279-1)
駐車場/あり 230台
料金/なし
問い合わせ先/さいさいきて屋 TEL.0898-33-3131
URL/https://www.ja-ochiima.or.jp/business/saisaikiteya/saisaikiteya/
reported by 星歌子まい