恐ろしくも美しい天才絵師・絵金…高知県香南市赤岡町にて炎に浮かぶ芝居絵屏風の世界

  

「絵金蔵」や「絵金祭り」で彼の残した作品に触れて

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皆さんは、「絵金」という人物をご存知でしょうか。
坂本龍馬に板垣退助、吉田茂や牧野富太郎など、これまで歴史的偉人を数多く排出してきた高知県。
そんな高知で同じく生まれ育ったのが、幕末の天才絵師・絵金こと弘瀬金蔵です。

当時の庶民に親しまれた絵金の屏風「芝居絵屏風」は、様々な歌舞伎を題材としたものです。
その最たる特徴は多くの人々に鮮烈な印象を残す、おどろおどろしいまでの鮮やかな赤色でしょう。

絵金の用いる赤は「血赤」とも呼ばれ、一見ややグロテスクにも見える色です。
そのため、絵に怖い印象を抱く人も多いかもしれません。
ですがこの色にはそんな純粋な恐怖のイメージとは、少し異なる意味が込められています。

現代に今なお伝わる唯一無二の画風と、まだまだ謎に満ちた素性も多い天才絵師・絵金。
彼の秘密や、現在も地元高知を始め全国に多くのファンを持つその魅力に、今回は迫りたいと思います。

ラストでは抽選で「絵金蔵」チケットプレゼントもありますので、お見逃しなく!

波乱万丈な人生を歩む…お抱え絵師・金蔵が町絵師・絵金になるまで

鮮やかな赤色を大きな武器とする絵金の芝居絵屏風。
ですがインパクトのある作品とは裏腹に、彼の知名度は同年代に活躍した浮世絵師、歌川国芳や葛飾北斎などに比べるとあまり有名ではありません。

絵金の名前が、あまり広く大勢には知られなかった理由。
そのひとつに、絵金の芝居絵屏風は芸術・美術品としてではなく、土佐の民衆の祭礼に欠かせないものとして今日まで伝わってきたから、という点があるでしょう。

絵師・金蔵が誕生したのは1812年。
当時の土佐藩の中心地であった高知城下で、髪結い職人(現在の美容師に近い職業)の子として生まれます。
幼い頃から絵の才能に恵まれていた彼は、18歳の頃に師のすすめで江戸へ遊学し、縁あって江戸でも名高い狩野派の絵師・前村洞和の元で修行することとなります。

本来であれば狩野派の修行は、一人前になるまで約10年はかかるという厳しい世界。
ですが金蔵は持ち前の才能を大いに発揮し、たった3年で修業を修了します。
その後高知へ帰郷し、21歳という若さで土佐藩の家老・桐間家のお抱え絵師という地位へ昇りつめました。

一庶民の髪結いの家出身だった金蔵は絵の才能によって、名字帯刀を赦される武士と同じ地位へと大出世。
まさに順風満帆な人生を歩んでいた彼でしたが、そんなある日、大きな事件に巻き込まれました。
それが、狩野探幽贋作事件です。

ひょんなことから、当時江戸でも人気だった浮世絵師・狩野探幽の贋作(偽物)を作った疑いをかけられてしまった金蔵。
それが本当だったどうかは結局、今でも真偽は定かではありません。
しかしこの嫌疑によって、金蔵はお抱え絵師の身分を剥奪。城下を追放されてしまうのです。

当時金蔵が描いた作品も、大部分が焼却処分となりました。
贋作作りに関与した疑いで、地位も名誉もすべて失ってしまった金蔵。

その後約10年間、彼がどこで何をしていたかはいまだに多くの部分が謎に包まれています。
ですが消息不明の時期を経た後、現在の高知県香南市赤岡町に住んでいたことが判明しています。

赤岡に住み始めた彼は、自らを「町絵師・金蔵」と名乗ります。
そして地元に住む農民や漁民、商人たちに頼まれ、歌舞伎の芝居絵を屏風に描いた「芝居絵屏風」を制作したり、提灯や絵馬、凧などに様々な絵を描いたりして、お金を稼ぎ暮らしていました。

そんな金蔵のことを人々は「絵金」の愛称で親しみ、彼の迫力ある絵は当時の庶民を大いに喜ばせました。
その後、1876年に享年65歳で永眠。
文字通り山あり谷ありの人生を生きた金蔵ですが、彼は絵師として最後まで、場所や環境が変わっても絵を描き続けました。

今でもここ高知、特に彼が町絵師・絵金として名を知らしめた赤岡町では、非常に多くの人々に金蔵の作品が愛され続けています。
芝居絵屏風などの作品が多数収容・展示されている「絵金蔵」や、本物の芝居絵屏風を間近で見られる貴重な機会である「須留田八幡宮神祭」や「土佐赤岡絵金祭り」が開かれるなど。
その存在は、ここ赤岡の町に確かに色濃く残り続けているのです。

見る者を強烈に惹きつける!「血赤」を始めとした絵金の特徴とは

時を超えて、現代まで愛され続ける絵金の芝居絵屏風。
個性的な特徴がいくつか見受けられますが、最も大きなものが冒頭にも少し触れた「血赤」ですね。

まるで本物の鮮血のようなこの色は、高知の山で採れた塗料の元となる鉱石・水銀朱の色。
そういった意味では、絵金の作品はこの赤岡町だからこそ生まれた絵なのかもしれません。

一見とてもおどろおどろしく、ぞっとする恐ろしさを感じさせる絵金の「血赤」。
ですが昔の人々にとっては、この赤色は魔除け・厄除けの意味を持つ色でした。

赤岡町は目の前に太平洋を臨む町で、古くから海で亡くなった人の霊が生きている人を襲うという言い伝えがあります。
そんな霊たちをも震え上がらせるのが、この絵金の「血赤」なのです。

絵金の描いた芝居絵屏風はその迫力で、恐れをなした幽霊を追い返してくれる。
そんな信仰から赤岡に住む人々が、芝居絵屏風を家の軒先に置いたことが、現代にも伝わる絵金祭りのルーツともされています。

このような伝承から、どうしてもやや怖い印象を抱かれがちな絵金の絵。
ですがよく見ると、彼の絵にはユニークで遊び心を感じられる部分も多々あります。

真剣な歌舞伎の一幕で後ろに描かれた人物がひょうきんなポーズをしていたり、時には猥雑でブラックユーモアを孕んだ要素があちこちに散りばめられていたり。
それも彼の作品の持つ、大きな魅力の一面でもあることでしょう。

また絵金の芝居絵屏風の特徴のひとつに、異時同図法があります。
様々な歌舞伎作品を題材とする芝居絵屏風ですが、そのお話の中の別々のシーンをひとつの絵に描きあげる手法を、絵金はよく用いています。
このような独創的な描き方も、作品の面白さでもありますね。

そしてこの芝居絵屏風には、基本的には落款(作者のサイン)がありません。
しかし、先述の贋作事件で大きく人生を変えられてしまった絵金。
以来自身の絵に施す落款に、彼はかなりのこだわりを持つようになったと伝わっています。

芝居絵屏風には、しばしば「隠し落款」が入れられていることも。
作品をよ~く見ないとわからない、「この絵が絵金のものである証拠」となる落款が施されています。
作品をじっくり観察して、そんな隠し落款を探しても面白いかもしれませんよ。

絵金の作品に触れるなら「絵金蔵」&「土佐赤岡絵金祭り」へ行こう!

多くの魅力を秘めた、絵金の芝居絵屏風を始めとした作品たち。
迫力満点のこれらを鑑賞するなら、ぜひ赤岡の町に足を運ぶことをオススメします!
まず絵金の作品を見るために欠かせないスポットといえば、赤岡町にある「絵金蔵」ですね。

この絵金蔵では、町内に残された二十三点の芝居絵屏風を収蔵・保管・展示。
作品を経年劣化などから守るため、館内に展示されている作品は基本的に複製となります。

美術館の建物は昔米蔵として使われていた建築物で、酒蔵をアトリエにしていた絵金の当時の様子が伝わってくるような展示も数多く楽しめますね。

作品の真髄を楽しめる「須留田八幡宮神祭」の雰囲気を疑似体験できる「闇と絵金」や、本物の芝居絵屏風を小さな覗き穴から見られる「蔵の穴」など。
彼の絵にも通じる創意工夫あふれる展示に多数触れられる美術館兼資料館です。

そしてもうひとつ絵金の作品に触れられる貴重な機会が、「須留田八幡宮神祭」と「土佐赤岡絵金祭り」の二つのお祭りです。
毎年「須留田八幡宮神祭」は7月14・15日、大勢の人出で賑わう「土佐赤岡絵金祭り」は7月第3週の土日に行われています。

町をあげて開催される、年に一度のこのお祭り。
多くの屋台やイベントで赤岡の地域が賑わう夜ですが、やはり見どころは町中の家の軒先に置かれている、本物の絵金の芝居絵屏風でしょう。
この日だけは複製でなく本物の彼の作品を、町のあちこちで直接見ることができるんです。

昔と同じく、芝居絵屏風を見る際の主な光源は、目の前に立てられた一本の燭台の蝋燭。
絵金の血赤は蝋燭の明かりで見ると、より生々しさや迫力が増す色とされています。

作品の真の魅力を感じたい人は、ぜひ夜の暗闇の中で。
炎に揺られて浮かび上がる芝居絵屏風を、直接目に焼きつけてみてはいかがでしょうか。

高知・赤岡町が生んだ天才絵師、絵金は今も愛され続けて

恐ろしくも美しい、唯一無二の異彩を放つ天才絵師・絵金の作品。
今年2022年は彼の生誕210年を記念する年でもあるため、絵金蔵にて各種イベントが開催されたり、来年2023年には大阪・あべのハルカスでの大規模な企画展「大絵金展」も決定しています。

一度見ると忘れられない、鮮烈なインパクトを残す絵金の芝居絵屏風。
しかし作品の持つ真のパワーを感じるには、やはり実際に直接見て、触れてこそ。
ぜひこの記念すべきタイミングに、赤岡の町や様々な場所で、絵師・金蔵の作品に触れてそのエネルギーを感じてくださいね。

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大人チケットペアでお送りします。

チケット希望の方はこちらから

応募期間:2022年10月18日~11月20日
当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせて頂きます。

■ 絵金蔵
住所:高知県香南市赤岡町538
TEL:0887-57-7117
営業時間:9:00~17:00
定休日:毎週月曜日(月曜が祝日の場合は翌平日)、12/29~1/3
絵金蔵 公式HPはこちら
イマナニで「絵金蔵」の情報を見る

reported by イマナニ編集部 曽我美なつめ
イマナニ特集