世界に誇る写真家の追悼 白川義員写真展 「天地創造」 愛媛県美術館にて

  

12シリーズの集大成となる「天地創造」を郷里、愛媛でついに開催!

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パッと目を引く極彩色。
世界にはこんな風景があるのか……と、思わず息を飲む数々の写真に圧倒される展覧会『追悼 白川義員写真展「天地創造」』が、愛媛県美術館で2023年1月14日(土)~3月12日(日)まで開催中です。

愛媛県出身の世界に誇る写真家・白川義員(しらかわよしかず)さんは、惜しまれながら昨年4月に永眠されました。
生涯を前人未踏の撮影に捧げた偉業の集大成となる写真展「天地創造」。
それをふるさと愛媛で開催できるのを作家本人が一番心待ちにしていたと言います。

オープニングセレモニーでは中村県知事をはじめ、白川さんと交流の深かった方々が集まり、功績を讃えて華々しくテープカットで開場。

セレモニーの後は、待ちに待ったファンのみなさんがずらりと並び、入口まで列ができていました。
本展覧会では、およそ50年にわたり撮影された作品の中から196点が紹介されています。

白川さんにしか撮れない作品を楽しみに来場する人も、初めましての人も、ダイレクトに五感を揺さぶられる感動の世界へ足を踏み入れてみましょう!

80歳を超えてなお地球の荘厳な姿を撮り続けた「白川義員」とは

(撮影 四国中央市 髙橋伸治)

白川義員さんは1935年愛媛県の四国中央市生まれ。
写真の優しい表情からは想像しがたいほどのバイタリティーで、精力的に世界中を取材。
世界に類を見ない山岳写真集『ヒマラヤ』の撮影や、史上初の南極大陸一周に成功しました。

「前人未踏を行く」というスローガンを掲げ、オリジナリティをとても大切にしていた白川さん。

1月14日に行われたトークセッションでは、白川さんと交流の深かった東京都写真美術館の関次和子さんと合同会社 PCT/雑誌「写真」編集長の村上仁一さんをゲストに、担当学芸員の杉山さんが白川義員の荘厳な自然を捉えた作品や彼の生涯についてじっくり語ってくれました。

「人の真似はしない、人が真似できない世界唯一の作品にするんだ、とよく口にしていた。クオリティにこだわり、撮影にも印刷にも、いつも細かい指示が。」
「画面に何が写っているか鮮明に覚えていて、トリミングするとすぐ気付く。」
など、写真への強いこだわりと覚悟を持って取り組まれていたので、一緒に仕事をする関次さんと村上さんも背筋が伸びる思いだったそうです。

そんな白川さんが初めてカメラを手にしたのは中学2年生の頃。
親戚からもらったカメラでコンテストに入賞し、高校では写真部を創設するなど、カメラと出会った時から生涯変わらない熱量で写真と向き合ってきました。

フィルムカメラを使っての撮影は体力勝負。
登山の経験はほとんどなかったが、全日本山岳写真協会会長の塚本さんに鳥海山へ連れて行ってもらった経験が忘れられず、そこから山岳写真へのめり込んでいきました。

いつしか白川さんの肩書は「写真家」のみならず、「登山家」や「冒険家」とも称されるように。

晩年はデジタルカメラにも挑戦し、パソコンでデータ処理をするなど、何事にもチャレンジし続けた生涯でした。

全12シリーズ圧巻の締めくくりを飾る「天地創造」

白川さんが50年にわたり撮影してきた全12シリーズ「アルプス」「ヒマラヤ」「アメリカ大陸」「聖書の世界」「中国大陸」「神々の原風景」「仏教伝来」「南極大陸」「世界百名山」「世界百名瀑」「永遠の日本」に続く、集大成である今回の展示会「天地創造」。

白川さん自身が選んだ渾身の196点を7章に分けて紹介しています。

第1章「嶺上晴雲 山岳・火山」では、史上初のヒマラヤ空撮がみなさんをお出迎え。
開場に足を踏み入れた瞬間から、8000m級の世界最高峰の山々に囲まれる展示室は、どこか厳かな雰囲気すら感じます。

そして注目してほしいのは、ひとつひとつの作品に丁寧につけられたキャプション。
美術館の「キャプション」といえば、作品のタイトルや解説などが書かれているものです。
大抵は担当学芸員によるコメントが付けられていますが、本展覧会では白川さん自らが書かれたコメントがびっしり!

撮影秘話や、その時その場で感じたことなど貴重なエピソードが書かれています。

アルプスの山々を撮影するにあたって大変なことは、実際に撮影する瞬間よりも95%は準備の苦労とのこと。

「ヒマラヤ」を撮り始めた頃は、中国とインドがヒマラヤを舞台に大戦争をした直後で、当時ヒマラヤは7ヵ国にまたがっていたが、どの国でもまず空撮の許可が下りない。
そこで地上撮影を試み、高山病で命からがらになりながら撮影するも、8000m峰の高さは地上撮影では表現できないと失望感を覚えたとか。

こうした撮影の苦労が分かる力のこもったキャプションが全てについているので必見ですよ!

こちらは「桜島夜明けの噴火」。
日本百名山である八ヶ岳や富士山、火山の写真も並びます。
噴火した火花を鮮明に撮影するため、夜にシャッタースピードを遅くして撮影。地に落ちた火山岩が破裂してばらばらになっていく力強い様が克明に映し出されています。
まるで、地球の生命力をそのまま見ているようですよね。

第2章「瀑布轟々 滝」、第3章「川流不息 河川・湖沼」も、生命の神秘、地球の息吹を感じる写真が並びます。

「航空撮影を多用するのは風景を立体的に見たいから」と語っている白川さんですが、もう一つのこだわりは撮影する時間帯。
マジックアワーと言われる日の出・日没の刻々と色が変わる時間の中で、息を飲むほどの美しい世界を切り取る。

現地で見たままの色をみんなにも見て欲しいと、7色オフセット印刷で色鮮やかに、高濃度な見た目になるように、色へのこだわりも強かったそうです。

一緒に雑誌を作っていた村上さんは、「他の人とは違う空間を捉えたような作品で、魔術的な色彩は、絶景を凌駕する絶景」と評しています。

こちらの「ウユニ塩湖の星」は、本展覧会のために80歳を超えてから撮影された写真です。
最近では“映えスポット”として話題になっているウユニ塩湖ですが、白川さんが南米撮影の旅をしていた時は地図にも載っていなかった場所。

ウユニ空港の標高は、富士山頂とほぼ同じ3665m。
飛行機が付く度に酸欠で倒れる人がいるような高地で、80歳を超えてなお、新発見された風土を収めたいとカメラを構えるバイタリティこそ、白川さんらしい作品に仕上がるような気がします。

第4章「地勢既美 峡谷・渓谷・洞窟」では、まるで絵画のような作品が並びます。
こちらも本展覧会のために撮られた作品「ザ・ウェーブ」があり、そちらの撮影にはNHK『白川義員“天地創造”を撮る』という番組スタッフが同行しました。

ザ・ウェーブは1日20人しか入域できない保護区にあり、そこへ白川さんと助手、スタッフの3人が当選しなければならない。
そんな状況で、なんと翌日には3人が当選!
「まさに奇跡としか思えない」とコメントされています。

本展覧会ポスターのメインビジュアルにもなった「ザ・ウェーブ」。

これを撮影するためには砂漠の中を歩き、山のような丘を2カ所ほど越えなければならないということで、死にそうになりながら到着。
「風景写真は肉眼で見たようにはなかなか写らない」と語られていますが、白川さんのこだわりで再現された印刷では、まるでこの世の物とは思えない色彩で、波が押し寄せてくるような迫力が伝わってきますね!

「マッターホルンを撮影中、あまりの荘厳な凄さにシャッターを切るのを忘れて見つめてしまった。」
日中新聞の特派員として撮影しにきていたのに、撮影し忘れたとは何事かと強く悔い、そこからいかに生きるべきか自問自答し、サラリーマンから独立してプロ写真家として約60年。
全12シリーズを撮り終え、「私の仕事は完了した」と語られたそうです。

「地球再発見による人間性回復へ」を基本理念に、地球を見つめ続けてきた白川さんだからこそリアルに感じる自然環境の変化。
それが写真からも伝わり、地球への想いに気付かされ、一人一人ができることについて考えさせられる。
そんな白川義員集大成にふさわしい展覧会になっています。

担当学芸員に聞こう!より深く作品の魅力が分かるイベント

2月4日(土)、3月4日(土)各14:00~は、専門学芸員・杉山はるかさんによる「フロアレクチャー」があります。
定員10名で、約1時間ほどかけて実際に作品を見ながらじっくりと解説が聞けます。

白川さんご自身のキャプションも大変面白いですが、学芸員の目を通して見るお話や、白川先生とのエピソードなど興味深いお話がたくさん聞ける貴重な機会なので、ぜひ参加してみてください。
※申し込み不要です。観覧券をお持ちの上、上記のお時間に展示室入り口にお集まりください。

その他にも、作品ガイドボランティアによる「対話型鑑賞プログラム」もあります。
こちらは2月26日(日)、3月12日(日)の各11:00~30分程度を予定しています。

本館2階研修室にて、1点の作品をじっくり見て話し合う中で、より深く作品を知れる機会です。
こちらも申し込み不要なので、ぜひ当日足を運んでみてくださいね。

※写真は、2006年11月実施「大竹敦人 サイト・スペシッフィク・ワークス/風景を閉じこめる球体写真」にて制作した過去作品

2月18日(土)14:00~16:00は、学芸員・金成めいさんによる「カメラ・オブスクラ公開制作」があります。

「カメラ・オブスクラ」は、カメラの原理を利用した装置。
外の景色が中(暗室)の壁に上下左右反転して映るので、まるでカメラの中に入っているような体験ができます。

上記の時間内にお越しの方は、自由に見学できますよ。
段ボールを切ったり組み合わせたりと大がかりな作業になるので、お手伝いをしてくれる方も大募集!
申し込み不要・無料のイベントなので、途中参加や短時間の見学も歓迎です♪

制作後は会期終了まで館内に設置されるので、自由に入って見てくださいね。
人が入ることができる大きさの「カメラ・オブスクラ」、ご家族で遊びに行ってみてはいかがでしょうか♪

世界中にファンのいる白川義員さんの写真ですが、近年では展覧会に足を運ぶ若い人の姿が目立ち、日本でも若い世代に注目されてきているとのこと。
私たちが白川さんの写真を通して地球を見ることで何を感じるか、何を考えるか、人々は世界にどう対峙していくか。
それこそが言葉を持たない“写真の強さ”だと言います。

みなさんは、何を感じますか?
実際に展示会場に足を踏み入れないと分からない体験をぜひ!

■ 追悼 白川義員写真展「天地創造」
開催期間/2023年1月14日(土)~3月12日(日)
会場/愛媛県美術館 本館1階(企画展示室1・2)
住所/愛媛県松山市堀之内
時間/9:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日/月曜日
※2/6(月)、3/6(月)は開館し、2/7(火)、3/7(火)は休館。
料金/【一般】1,300円【高大生】800円【小中生】500円
お問い合わせ089-935-2322(愛媛新聞社企画事業部)
愛媛県美術館 公式HPはこちら
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reported by イマナニ編集部 さきち
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