宇和島市を拠点にする「大竹伸朗」の個展が愛媛県美術館で初開催

  

16年ぶりの大回顧展で半世紀に渡る創作を詰め込んだ珠玉の500点に注目!

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愛媛県美術館は、今年で開館25周年!
そんなアニバーサリーイヤーにふさわしい個展「大竹伸朗展」が7月2日まで開催中です。

会場に足を踏み入れた瞬間に異世界へ来たような、それでいてどこか懐かしいような……。
まるで世界にちりばめられた記憶の中を旅しているみたいに7つのテーマに沿って作り込まれた会場。
その魅力を半世紀近くにおよぶ創作活動と大竹さんのインタビューも交えてたっぷりお届けしていきます!

さらに、愛媛開催にちなんだ展示、大竹伸朗さんが手がけた「パフィオうわじま」ホール緞帳作品と、道後温泉本館保存修理後期工事の素屋根テント膜作品の原画を初公開!

本展期間中のパフィオうわじま内「大竹文庫」オリジナルスタンプを押したブックリスト、道後温泉本館「熱景/NETSU-KEI」コラボレーション入浴券の半券をお持ちの方は団体料金で入場可など特典もありますよ。

本展オリジナルグッズも多数ありますよ~。
25周年を迎えた「愛媛県美術館」が今激アツです!!

足を踏み入れた瞬間に感じる、大竹さんの半世紀

愛媛県美術館に来たはずなのに、そこには“宇和島駅”の駅名看板。
こちらを見上げて足を止めた人も多いのではないでしょうか?
思わずパシャリ……どこにいるか分からないよ~なんてSNSでシェアしたくなっちゃいますよね。

開催期間中に展示されているこちらの駅名看板も作品のひとつ。
大竹伸朗展の世界は建物の外にも広がっています。

現代日本を代表するアーティストである大竹伸朗さんは、高度成長期の東京に生まれ育ち、1988 年以降、活動拠点を愛媛県宇和島市に移しました。
分野を限定することなく多彩に活動を展開し、二大国際展であるドクメンタ(2012年)とヴェネチア・ビエンナーレ(2013年)に参加するなど海外でも高く評価されています。

東京オリンピックから大阪万博開催あたりまでの急速な戦後復興とアメリカのポップカルチャーが膨大に流入してきた時代に幼少期を過ごした大竹さん。
5~6歳頃からマンガに興味を持ち始め、その頃から「アート」という意識はなくとも「貼り絵」遊びとしてコラージュ制作に夢中になっていたそうです。

そして18歳の頃に住み込みで働いていた北海道に始まり、多大な霊感を与えられたロンドン、ニューヨーク、ナイロビ、日本各地と巡っていきます。
「成り行き任せの縁で各地に赴いて来た」という大竹さんの創作活動は、ご自身の記憶でもあり、消費され、忘却されてゆくようなあらゆる「もの」に着目した独創性に溢れる多様なアートとして形作られてきました。

本展では最初期(9歳の頃の作品)の作品から近年の海外発表作、そしてコロナ禍に制作された最新作まで、選び抜かれたおよそ500点の作品が一堂に会します。

今回は7つのテーマ「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」に基づいて、大竹さんの軌跡を読み解いていく展示。

ライフワークである70冊を超える≪スクラップブック≫や記念碑的な立体大型作品などを、敢えて時系列から切り離し、その作品世界に没入できるよう再構築して紹介されています。

大竹伸朗ワールドツアーへようこそ

それでは、実際に会場の中へ足を踏み入れていきましょう!
外の“宇和島駅”看板もだれもが目を引く面白い展示でしたが、入口も駅改札のようになっています。

会場は1階と2階に分かれていて、どちらも改札のような入口を通って入場。
どこか知らない世界に旅に出るみたいで、なんだかワクワクします♪

このゲートは25周年を迎える「愛媛県美術館」に4月から新たに導入されたシステム!
これから美術館を訪れるのがもっともっと楽しくなりますね~。

入った瞬間に驚くのは、作品のバラエティーの豊かさです。

一般的な絵画展と違って立体の作品も多いので、これが本当に一人の作家による回顧展なのか?と疑問を抱いてしまうほど幅広い分野の作品があります。

そして、もう一つの驚きポイントは「キャプションがない」こと!
作品の横には、通常“キャプション”と呼ばれる作品のタイトルや説明が書かれたものが一緒に展示されています。

そちらのキャプションを読むことも、作品や作者をより深く知ることができる手がかりのひとつとして楽しみにしている人もいますよね。

本展を構成する7つのセクションの内容は、それぞれ重複しながら、ゆるやかにずれて繋がっていきます。

「テーマにしばられないで見て欲しい」という大竹さんの強い思いから、会場は回遊できる構造に、そしてキャプションがなく先入観なしで見られるようになっています。

なので、本当に没入感がすごい!
各テーマごとに全く違う世界のようで、どこか繋がっている空間を歩いていると、大竹さんの記憶を超えて、世界の記憶を覗いているような感覚になってきます。

それでもお気に入りの作品を前にすると、どんなタイトルだろう?いつ制作されたんだろう?といろいろ気になりますよね!
そんな時は「Catalog Pocket」をダウンロード!
スマホでいつでもどこでも、キャプションが見られます。
もちろん、入口に作品一覧の用紙も配布しているので、スマホなしでも見て回れますよ。

7つのテーマを巡る

大竹伸朗さんがその半生をかけて見つめてきた情景を、作品を通して追体験していくような本展。
各テーマはそれぞれに切り離せず、重要な記憶が作品として層になって世界観を形成しています。

展示会全体が収集された「自/他」の積層であって、最初のセクションはその目次、もしくは大竹さんの略歴のような役割。

「全く0の地点、何もないところから何かをつくり出すことに昔から興味がなかった」という大竹さんの作品の原点は、コラージュ。
「既にそこにあるもの」との共同作業を続けてきました。

残された最初期(9歳の頃の作品)のコラージュ・ワーク≪「黒い」「紫電改」≫から、近年の大作≪モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像≫まで、およそ60年の幅がここ「自/他」に凝縮しています。

注目してほしいのは≪モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像≫が、2012年に制作された時と同じオリジナルサイズでの展示というところ。
天井が高く、広い会場を生かして、各セクションゆったりと見て回れるように設定されています。

続いて、「記憶」のセクションでは、他者によってゆらぎ変容していく自己、その移ろう「自/他」を自己としてつなぎとめるものとして「記憶」が出てきます。

タイトルに付けられた「残景」「時憶」「憶景」「憶片」といった独特の造語にも見られるように、大竹さんは「記憶」という行為ないし機能に強い関心を抱いてきました。

「記憶」に興味を持ったのは、睡眠時の「夢」がきっかけ。
色彩、遠近法、匂い、肌触り、音、味、質感など現実世界で五感が感知する事柄の一部は「記憶」として「夢」に現れる。
その両方に現れる「形」が、大竹さんの内側で「根拠のない確かさ」となって作品に形作られてきました。

そのときどきに形を変えるものとして「記憶」を捉える大竹さんにとって、「時間」もまた流れていくだけでなく、形を持ち、手触りがあり、音や匂いのある素材として扱われてきました。

「描きかけの絵とは、とりあえず電池を抜いた状態の「時計」のようなものかもしれない」
そう感じた大竹さんは、「時間」は絵の中に溜まっていくのだろうと思ったそうです。

そんな「時間」が、大竹さん自身の様々な場所への「移行」によって彩りが加えられています。

外に展示されている≪宇和島駅≫もそのひとつ。
駅名看板が駅名看板としての機能を変えることなくほぼ「移行」することだけが作品化されています。

大竹さんの代表作ともいえる「スクラップブック」は、1977年~2022年に至るまで71作が一挙大公開。

毎日続けていると、時間が流れ始めて「動いた」と思える瞬間が訪れる。
そんな風に選び取った1冊の紙の束と過ごした時間に納得できたかどうかが、それぞれの本の終わりを決めるそうです。

大竹さんが向き合ってきた1冊1冊を、こちらもまたじっくりと眺められる贅沢な空間。

愛媛にちなんだ展示にも注目です!
《熱景/NETSU-KEI》は道後温泉本館保存修理後期工事の素屋根を覆う作品で、これまでで最大のサイズ。
自家製色紙をちぎって制作した5枚の原画を、約25倍に拡大してターポリン素材にプリントされています。

実は今回、職人的技術の高精細印刷によって、紙の繊維や筆跡、奥行きなどが明瞭かつ鮮明に再現された、道後作品と同じテント膜で展示空間を演出しています。
《熱景/NETSU-KEI》のテント膜実物と原画とを間近で比較して鑑賞できる贅沢な趣向となっています♪

大竹さんが制作拠点とする愛媛県宇和島市の学習交流センター「パフィオうわじま」のホールに設置されている緞帳作品の原画も展示されています。
宇和島湾の入り口に立つ奇岩「のぞき岩」を図案化した古いマッチラベルから着想を得た作品です。

そして、展覧会を締めくくるのは、ポスタービジュアルにもなっている最新作《残景 0》(2022 年)と小型エレキ・ギターの付属した音の出るスクラップブックです。

会場の中ではあちこちで音が流れています。

1982年の初個展よりも前に、ロンドンでサウンド・パフォーマンスに参加し、東京でもライブを行っていた大竹さん。
ノイズバンド「JUKE/19.」を結成し、ジャンルを横断するアーティストとして音をコラージュするなど、「音」は最も重要な素材として大竹さんの中にあり続けてきました。

「どこにいようとやりたいことをやり通す」
世界各地から素材を集め、平面的な制作に留まらない大竹さんの独創的な作品が、音楽と美術の境界線を繋いでいます。

関連イベントで大竹さんの世界をもっと知ろう!

「大竹伸朗展」の魅力をもっともっと知れる、関連イベントも続々登場!

【第1弾】は、大竹伸朗さんによる《ダブ平&ニューシャネル》デモンストレーション演奏およびサイン会。
5月13日(土)、7月2日(日)の各①11:00~12:30/②14:00~15:30です。

どちらも申込不要ですが、デモンストレーション演奏への参加は展覧会観覧券が必要です。
サイン会は各回先着50名、当日の①10:00~と②13:00~、整理券を配布します。

5月20日(土)、6月18日(日)の各14:00からは、「学芸員によるフロアレクチャー」があります。
1時間程かけて1階と2階の会場を学芸員と一緒に見て回れますよ。

5月7日(日)、21日(日)、6月4日(日)、18日(日)、7月2日(日)の各日11:00~11:30は、当館作品ガイドボランティアによる「対話型鑑賞プログラム」。
1つの作品を見てじっくりと話し合います。

どちらも申込不要で、作品の魅力をぐっと感じられる催しなので、ぜひ参加してみてくださいね♪

■ 大竹伸朗展
開催日/2023年5月3日(水・祝)~7月2日(日)
開催時間/9:40~18:00
開催場所/愛媛県美術館
休館日/月曜日(祝日及び振替休日に当たる場合は、その翌日)ただし、毎月第1月曜日は開館、翌日が休館
住所/愛媛県松山市堀之内
料金/【一般】1,500円【高大生】900円
※中学生以下、障がい者手帳等をお持ちの方とその介護者1名は無料。
※その他割引あり
お問い合わせ/089-932-0010
大竹伸朗展 公式HPはこちら
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reported by イマナニ編集部 さきち
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