【愛媛県くり研究同志会 兵頭知幸】 土と人が育む豊かさ、「柚子・栗で感じる農業の魅力」 【愛媛/鬼北町】

  

“鬼の棲むまち” で出会う、自然の恵み

0

周囲を1000m級の山々に囲まれ、四万十川の最大支流・広見川が流れる自然豊かなまち鬼北町(きほくちょう)。

全国で唯一「鬼」の文字がつく自治体名を生かし、鬼をテーマにしたまちづくりに取り組んでいます。

そのシンボルに【道の駅広見森の三角ぼうし】では、金棒を持ち、恐ろしい風貌をした赤鬼「鬼王丸」の像が大迫力で出迎え、【道の駅日吉夢産地】では鬼王丸の母である「柚鬼媛」の巨大なモニュメント、鬼の母子像でも有名です。

そのほかにも店舗や倉庫などの外壁にユニークな鬼が描かれた「鬼のウォールアート」など、町中に鬼を感じる仕掛けが盛り沢山!

また鬼北町は、愛媛県内でもトップクラスの生産量を誇る柚子や鬼北熟成雉(きじ)、原木生しいたけなどが盛んに栽培され、自然豊かな風土に包まれています。

そんな自然に恵まれた“鬼が棲むまち”の「春夏秋冬」の魅力を、訪れた人々や地元の人にも再発見してもらえるよう、農業を通じて交流の場を作る一人の名人と出会いました。

自然と共に歩む農業の喜び

鬼北町の山間部で生まれ育ち70年「柚子」や「栗」を中心に農業を営む兵頭知幸さん。

町から少し離れた農園に足を運ぶと、栗や柚子の木々がいっぱいに広がる中、山の静けさと自然の美しさに包まれた空間が広がります。

兵頭さんの農業に対する信条は、「嬉しい、楽しい、おもしろい!」ですが、その陰には長年にわたる努力と忍耐がしっかりと培われていました。

兵頭さんが農業の魅力に引き込まれたのは40歳を迎えた頃、それまでは全国各地、北海道から岡山まで活躍する「植木職人」として、その技術を極めていました。

最初は道の駅に野菜を出荷することから始まり、農業の世界に入るにつれて、「自然のことがだんだんわかるようになった。

人間が自然に手をかけることで、自然も応えてくれるんよ」と兵頭さんの言葉には、長い時間をかけて育まれた自然への深い繋がりが表れています。

「兵頭さん家の栗」ができるまで

実は兵頭さん、栗の栽培に取り組む中で「栗は本当に難しかった」と苦笑いを浮かべながら振り返ります。

栗の栽培を本格的に始めた15年前、最初はすべての木が枯れてしまい、その原因が分からず、土壌改良を行ったり、接ぎ木を試みたりして、試行錯誤を繰り返しました。

毎日「作業日誌」を詳細に記録し、どの木から採れる栗が最も美味しいか、またその木がどのような環境で育つか、自ら研究を重ねながら栽培を行い、多くの実を実らせていきます。

品質の良いものを作るために、課題を見つけては自分なりに解決策を考え、どんな結果が得られるかを楽しみにしながら、日々の農作業を楽しんでいると話してくれました。

その努力を重ねた結果、現在では「栗名人」として広く慕われる兵頭さん。

鬼北町の豊かな自然の中、有機栽培にこだわって育てられた大粒の栗は、大きな寒暖差の環境で風味豊かな逸品に仕上がり、鬼北町のふるさと納税の品【兵頭さん家の栗】としても選ばれるほど人気を誇っています。

栗の木の耕地面積は、なんとサッカーボールコート2個分の広さ!
農園内には散水用スプリンクラーを設置し、生育環境を整え、品質管理に力を注いでいます。

「ふるさと納税品」には、20種類以上育てる栗の中から、果実が大きく甘みが強いのが特徴の「みくり」、甘みと香りが豊かで、果肉はしっとりとした「岸根」、食感が良くしっかりした果肉が、栗ご飯や和菓子に最適の「筑波」を届けています。

また栗栽培の名人の技術に加え、栗の美味しい楽しみ方を伝えることにも力を注いでおり、兵頭さん特製の「渋皮煮」は、大きな栗がホクホクとした食感で、甘みがしっかりと引き立ち、まさに絶品!

栗を皮ごと煮て三日間かけて渋抜きを行い、最後にブランデーを少し加えるなど、栗を調理する過程を通じて、どれほどの手間と愛情をかけて育てられているのかを実感しました。

安心安全な柚子栽培のこだわり

寒暖の差が激しい鬼北町の気候は、香りの強い良質なゆずの栽培に適していることから、昔から「ゆずの里」とも呼ばれています。

化学肥料や農薬を一切使用しない特別栽培にも取り組んでおり、搾った果汁に農薬が含まれる心配がなく、安心して柚子の香りや酸味を楽しんでもらえるよう心がけています。

皮から果汁まで、すべて安心して口にできるように丁寧に育てた柚子が、今では海外で活躍する姿に大きな喜びを感じていると話してくれました。

鬼北町ではポン酢や焼き菓子、アロマオイルなど柚子を使ったさまざま加工品が豊富に並び、秋の収穫シーズンには、柚子の爽やかな香りが町中に広がり、秋の訪れを一層感じさせてくれます。

兵頭さんの柚子のおすすめの食べ方は、原木椎茸を七輪でじっくり焼き、香ばしい風味を引き出した後、仕上げに柚子を絞ってかけること!
椎茸の旨味と柚子のさっぱりとした香りが絶妙に調和し、豊かな味わいが広がります。

また、柚子の果汁は、焼き魚や鶏肉、さらにはデザートにもぴったり!
風味が引き立ち、どんな料理にも爽やかなアクセントを加えてくれます。

挑戦の先に広がる可能性

また豊かな自然環境を活かして、新たに「養蜂箱」を設置し、養蜂の挑戦がスタート!
ミツバチが多く生息するこの地で、兵頭さんは自然との共生を深めながら、蜂蜜作りという新たな目標に取り組んでいます。

「年齢に関係なく、挑戦し続けることが大切」と語る兵頭さん。
その言葉には、年齢を理由に挑戦を避けるのではなく、むしろ新しいことに対して前向きに取り組む姿勢を大切にしていることが感じられます。

新たな可能性を切り開く蜂蜜は、まろやかで奥深い味わいを持ち、自然の恵みを存分に感じさせる一品。

蜂蜜作りを通じて新しい生きがいを見つけ、自然との絆を感じながら、心豊かな生活を楽しむ姿は笑顔に満ちあふれています。

余すことなく自然の魅力を伝えたい

「自然を理解するためには、実際に見て、触れて、味わうことが何よりも1番」と語る兵頭さんの農園は、栗や柚子といった秋の恵みだけでなく、春の山菜から始まり、夏の新鮮な野菜、銀杏や蜂蜜など、いつ訪れても季節ごとに違った旬の恵みを存分に感じることができます。

鬼北の豊かな自然に囲まれ、自分が理想とする農業に取り組めることに幸せを感じている日々。
次世代に自分の体験を通じて、地域の自然や農業の魅力を余すことなく伝えていきます。

「春にはここの桜が満開になるから、またおいで」と温かく見送ってくれる姿に、私は“鬼のまち”での出会いが忘れられない思い出として心に残り、自然と農業への新たな気づきを得ました。

この町ならではの魅力的な風土、鬼北と農業の未来を切り開く力になると信じて、兵頭さんは今日も自然と共に歩み続けています。

  • ■ 愛媛県くり研究同志会 兵頭知幸
  • 住所/愛媛県北宇和郡鬼北町上銀山476番地

reported by なづな
ひめトレイル