坂の上の雲ミュージアムで小説『坂の上の雲』の世界に触れよう
愛媛/松山ミュージアム Vol.3 坂の上の雲ミュージアム
松山出身の歴史上の偉人と言えば、俳人・正岡子規や、日露戦争の時代に活躍した秋山好古・真之兄弟の名前が有名ですね。
そんな松山出身の偉人3人を主人公とした司馬遼太郎による歴史小説、『坂の上の雲』。
本著作をコンセプトとしてこの街に誕生したのが、ここ坂の上の雲ミュージアムです。
小説『坂の上の雲』には、激動の時代の中で生きた人々の軌跡が色鮮やかに描かれています。
彼らのその背中には、現代に生きる私たちに対しても多くの示唆を与えてくれる要素がたくさん。
そんな人々の生きた歴史から様々な事を学ぶ場となることが、このミュージアムのねらいでもあります。
本ミュージアムの展示コーナーは、大きく分けると常設展と企画展の2つです。
2F~4Fに展開されている常設展には、小説の主人公である秋山兄弟と正岡子規。
3人の生涯の歩みや彼らが生きた明治時代を辿る事のできる、時代年表や縁の深い資料が多数展示されています。
そして、4F展示室3で催されている企画展。
こちらでは毎年テーマを変えながら、小説『坂の上の雲』の内容や常設展の展示をさらに奥深く楽しめる企画展が開催されています。
現在は小説に登場する人々にスポットを当てた企画展、「『坂の上の雲のひとびと』」が開催中。
今回はこの企画展の内容について、詳しく紹介をしていきたいと思います。
物語を彩るメインキャラクターたちの足取りに触れよう
こちらの企画展「『坂の上の雲』のひとびと」は、2020年2月より開催中の展示です。
本来であれば通常通り1年間の開催予定でしたが、新型コロナウイルスの影響を鑑みて多くの人々に観覧頂けるよう、さらに1年間の会期延長が決定しました。
それに伴い、2021年2月24日に展示内容も一部リニューアルされています。
これにより一度展示を見に来た方も初見の方も、より一層企画を楽しんでいただけるようになりました。
今回の企画展のテーマは、小説『坂の上の雲』のメインキャストとなる面々。
本作には、主な主人公の3人以外にも大勢の魅力的な人物が登場します。
中でも物語のキーパーソンとなる、6人の人物。
彼らをそれぞれ3つのテーマに区分し、その人物像を垣間見る事のできる展示を展開しています。
まず最初のコーナーのテーマは「言論」の文や。
ここでスポットの当たる人物は、主人公の1人でもある正岡子規と陸羯南(くがかつなん)の2人です。
羯南は子規が勤めていた新聞社の社長兼主筆で、子規の叔父である親友の加藤拓川に頼まれ16歳の頃からずっと子規の面倒を見続けています。
自分よりずっと年下の子規の才能や人柄に強く惚れ込み、彼を生涯支え続けることに尽力した羯南。
子規もまたそうして自分に大きな愛情を注いでくれる彼を、まるで親や兄のように深く信頼していました。
2人の強い絆が垣間見える、そんな展示の数々がここでは楽しめます。
これは陸羯南が、当時自身が経営していた日本新聞社の支援者に、会社存続のための融資について交渉した手紙です。
苦しい経営が続いていた日本新聞社。
記事の内容によっては政府から新聞の発行を止められ、その分売上が見込めなくなることもしばしばあったようです。
そんな苦況に立たされながらも、羯南は子規が才能を遺憾なく発揮できる場を作ることへの労力を惜しみませんでした。
もちろん子規自身も羯南の思いを有難く思う一方で、自身の病気も相まって彼の助けになれないことを不甲斐なく思っていた様子。
小説『坂の上の雲』ではそんな羯南への感謝を、親友の夏目漱石に涙ながらに子規が吐露するシーンも描かれています。
続いてのテーマは、「軍事」の分野。
このコーナーで取り上げられているのは、東郷平八郎と児玉源太郎の2人です。
小説『坂の上の雲』は正岡子規の死後、彼の友人である秋山兄弟が軍人として日露戦争へ身を投じる場面へと展開していきます。
海軍と陸軍、それぞれの立場での物語の重要人物が、この2人の存在なのです。
日露戦争での東郷や児玉の様子を、臨場感を以てうかがうことの出来る写真や書の数々。
中でも見どころの展示は、東郷平八郎が明治天皇へ日露戦争の戦況を奉告した際の原稿草案でしょう。
この原稿には、東郷の作戦参謀であった秋山真之の加筆修正が多数加えられています。
当時の真之の筆跡を見ることが出来るのが、こちらの写真右の資料。
教科書にも乗っている歴史上の人物である東郷平八郎や、物語の展開を牽引する存在の秋山真之。
彼らが確かにこの時代に生きた軍人だったことを示す、貴重な資料とも呼べるのではないでしょうか。
企画展最後のコーナーのテーマは「外交」の分野。
ここでスポットの当たる人物は、小村寿太郎と金子堅太郎の2人です。
多くの犠牲を出した戦争を終結させるため、日本とロシアの講和のために力を尽くした彼ら。
今後の日本の未来や、大勢の国民の運命。それを背負う、あまりにも大きな重圧。
これを一手に引き受けた「もう1つの日露戦争」とも呼べる奮闘の足跡を追う展示を、ここでは見ることができます。
海外での彼らの活動を紹介する資料や、講和会議の写真や絵、会議の様子を伝える新聞の号外等々。
数々の展示の中でも注目したいものは、昭和初期に出版された金子堅太郎自身の講演録です。
国のトップであった伊藤博文に頼み込まれ、大学の同胞として旧知の間柄であったルーズベルト大統領へと接触したこと。
また渡米にあたって、小村寿太郎や児玉源太郎から数々の情報を入手したことなど。
そういった彼の臨場感あふれるエピソードが、この書籍には詳細に描かれています。
当時の金子自身の貴重な体験を色濃く反映した、まさに生ける体験録とも呼べる著作です。
さらに、小説『坂の上の雲』を執筆した司馬遼太郎。
彼は様々な歴史小説を執筆する上で、膨大な資料を元に物語を紡いでいたことでも知られています。
写真左に映る、昭和初期に出版された金子の講演録もまた。
もしかしたら彼が『坂の上の雲』を執筆する上で参考にした資料の1つだったのかもしれません。
言論、軍事、そして外交。
3つのテーマで取り上げられた、小説に登場する人物たち。
彼らにスポットを当てたこの展示はその全体像を巡る事で、ちょうど物語の流れを追体験できる造りともなっています。
ですので、小説未読の方も、すでに何度も読んでいる方も。
どちらも楽しめる、そんな企画展としても堪能することができるでしょう。
小説の世界をさらに楽しむイベントも随時開催中!
また坂の上の雲ミュージアムでは、これらの展示以外にも様々なイベントが開催されています。
近日中に開催予定となっているものの1つが、こちらの3/21(日)に行われる秋山真之祭。
今年は人数限定の小規模開催ですが、声優や演出家としても活躍されている壌晴彦氏を迎えての朗読などのコンテンツも用意されているそう。
また毎週土曜日に本ミュージアムで定期的に行われている「土曜コンサート」も評判を呼んでいるイベントの1つ。
このコンサートは、「音」を通じてミュージアムから発するメッセージに触れて頂く催しとなっています。
毎週変わる演目内容はぜひ公式サイトにてチェックして頂き、気になる内容があれば覗いてみて下さいね。
歴史と文学、そして美術。
様々な文化的視点から小説『坂の上の雲』を、ひいてはこの松山という街の魅力を再発見できる坂の上の雲ミュージアム。
少しずつ春の足音が聞こえてくる今日この頃。これからのおでかけシーズンの予定にぜひ、坂の上の雲ミュージアムへの訪問を加えてみてはいかがでしょうか?
■ 坂の上の雲ミュージアム
住所:愛媛県松山市一番町三丁目20番地
問合せ先:坂の上の雲ミュージアム
電話番号:089-915-2600
営業時間:9:00~18:30(入館18:00まで)、喫茶・フードコート(営業時間10:00~17:00)
休日:月曜(休日の場合は開館)/ほか臨時開館あり
料金:観覧料:一般400円・高齢者200円・高校生200円・中学生以下無料
駐車場:障害者用5台(車椅子使用者の駐車スペース)
イマナニで「坂の上の雲ミュージアム」の情報を見る
坂の上の雲ミュージアム 公式HPはこちら