さいさいきて屋の生産者さんシリーズ Vol.3 ~進化し続ける農業家!異色のUターン就農×YouTuber~

  

星歌子まい    イマナニ体験レポート

ゼロからのスタート、地道な努力で紡ぐ攻めと守りの農業ストーリー

JAおちいまばりのさいさいきて屋に野菜を出荷している生産者さんの中には、ちょっとばかり異色の顔を持つ有名な農家さんがいらっしゃいます。と言うことで、お会いしてきました!

愛媛県今治市に点在する計約1.5ヘクタールの畑で、ゴボウ、ニンジン、ブロッコリー、サニーレタスなど多種類の野菜をお一人で育てている新居田裕人さんです。

新居田さんがさいさいきて屋に野菜を出荷するようになったのは2013年。
それまでは全く異業種の、不動産業会社員でした。

前職時代、仕事で身体を壊しかけて人生を考えた新居田さん。
頭を過ったのは、自然豊かな地元今治での農業生活でした。

実家は農家でもなく、就農の経験もありません。
大阪からUターン後、まずは農家さんの元でアルバイトをして農業を学びます。

文字通り“ゼロからのスタート”となった新居田さんは、知り合った方たちを通して農地を探したり農機具を借りたりと、一つ一つ地道に農家としての足場を創っていきます。

「さいさいきて屋には、野菜を作り始める前に説明会に出向いて、生産者登録をしたんです」と、語る新居田さん。
「野菜ができてから、と言う考えでは出遅れてしまう」と、自分に発破をかけたのだそうです。

そうして白菜、大根、レタスと言った露地野菜の栽培からスタート。
試行錯誤しながらも順調に野菜は育ちましたが、白菜や大根は特に重量のある野菜。一人で行う収穫や出荷には、相当な労力を要しました。

また、独立農家になって間もなく旬のジャガイモをさいさいきて屋に出荷した際には、同様に多くの生産者がジャガイモを出荷していたため、売れ行き不振で苦い思いをしたことも。

そんな経験でトライ&エラーを積み上げ、新居田さんは個人農家として野菜を育てる数々の教訓を一から体得しました。
こうして農業戦略を練ってきた新居田さんは、なんと『農業系YouTuber』と言う異色の顔を持つようになるのです。

『農業物語』と題して、週に3~4本のペースで動画を配信。
“旬の野菜の栽培法”はもちろん“おススメ農機具”“〇〇使ってみた”“肥料の特徴・使い分け”情報など、農業にまつわる話題を豊富に公開しています。

チャンネル登録者数は2021年12月現在、1万2000人超え!
外で体を動かしながら実物を披露して、実体験を語る新居田さんの『農業物語』チャンネルは、家庭菜園愛好家からプロの農家まで多くのファンに慕われています。

そのYouTube動画の舞台ともなっている新居田さんの畑を幾つか案内いただけると言うことで、ここからは新居田さんの畑ツアーです!

広がる田園風景の中を走る新居田さんの軽トラックを追いかけると、緑のブロッコリー畑が見えてきました。
隣には今年の夏に収穫を終えた、トウモロコシ畑もあります。

今はブロッコリーの生育中で、10月下旬から翌年6月ごろにかけて収穫するそうです。
「美容に良いとされるビタミンCが豊富な野菜では、ブロッコリーが育てやすかったんです。美味しい食材として人気ですしね」と、新居田さんはいつもの畑仕事を披露してくれました。

中心部にできる大きなブロッコリーの蕾、“頂花蕾”をナタでスパッと切り落とします。
この頂花蕾を収穫した後には、脇に少し小さめの“側花蕾”と呼ばれる次のブロッコリーができます。

「初めの収穫から時期を置いて、次のブロッコリーが獲れるんですよ。ブロッコリーは二度おいしいんです(笑)」と、笑顔で茶目っ気まじえて説明してくれます。
“育てやすく、長く収穫できる野菜を育てること”。これも一人農家、新居田さんが経験から得た教訓です。

軽トラックに乗り、次なる畑に移動。毎日、新居田さんは朝から暗くなるまでこうして幾つかの畑を巡って作業をします。

やって来たのはゴボウ畑!
ゴツゴツとしたゴボウからは想像できない、黄緑色の軽やかな葉っぱがふわふわと畑一面を覆っています。
地中深く根をはる細長いゴボウを、どうやって収穫するのだろうか?!興味津々で新居田さんのお仕事を拝見しました。

まずは葉をかき分け、ゴボウの葉の根本を探します。
そこをカマでサクサクと切って葉を落としたら、スキに持ち替えて丁寧に土をほぐします。

「ゴボウは若いものがアクは少なくて、育ちすぎるとアクが強くなりすぎるんです」「でも、若すぎると根が細くて調理がしづらくて困りますね」と、ゴボウの美味しい話をしてくれる新居田さん。作業をしながらの会話も、徐々に息が上がり始めました。

スコップに持ち替え、ゴボウの根本周りに角度を変えてスコップを差し込みます。
その作業を幾度か繰り返し、道具を地面に置き茎の根本を掴むと…ゴボウと一緒に土のかたまりを一気に引き抜きました!

ゴボウを包む土をワサワサと振り落とせば、ゴボウの姿がお目見え。
「ゴボウの収穫は本当に大変で…」と、額に汗をにじませながら新居田さんは話します。

確かに、筆者の様な素人にはスコップで掘る体力どころか、土のほぐし具合も、どれくらいになればゴボウを地面から引き抜いて良いのかの検討もつかない作業です。
育てることも収穫も、熟練の経験が必要なことを目の前で思い知りました。
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青空の下、広がる気持ちの良い田園風景。横に一筋並ぶのが新居田さんのブロッコリー畑
青空の下、広がる気持ちの良い田園風景。横に一筋並ぶのが新居田さんのブロッコリー畑 順に収穫を待つブロッコリーの畑 ブロッコリーの株の中心にできる頂花蕾。ギュッと詰まって美味しそう! ゴボウ畑。土をほぐしてゴボウを土から掘り起こす ホクホクにほぐれた土から「グッ」と力を入れてゴボウを引き抜き土を払う
続いてはニンジン畑です。

畑に屈みこんだと思ったら次の瞬間、新居田さんの手には色鮮やかなニンジンがぶら下がっています。
次々と引き抜いていく見事な手さばきに、思わず見惚れてしまいました。

この日同行した、ラジオでもお馴染み“さいさいすーさん”はニンジンの葉っぱにも興味津々。
さいさいすーさんの「葉っぱも食べられそうですね」の言葉に、「食べられるんですよ、春菊の様な感じで美味しいですよ」と教えて頂きました。
筆者の脳内では「どんな料理になるかな…♪」と妄想が広がります。

そんなことを考えながら、お次はカブ畑に移動。

新居田さんは、品種改良されて誕生した珍しいカブの一種、『もものすけ』を育てています。
もものすけの特徴は、大きくなればコカブ程の大きさになり外皮は赤色。
そして特筆すべき一番の特徴は、手で簡単に皮が剥けると言うことです。

新居田さん曰く飾り切りにも向いているそうで、早速、獲りたてのももすけのカブを使って実演してくれました。

もものすけを縦に4分割します。
その一つを、赤い皮と実の部分の境目に指を掛けて外皮を剥ぐ様にすると、果物(ドラゴンフルーツや、みかん)の皮を剥くようにスルスルっと剥がれました。
一瞬のできごとです。

生で食べられると言うことで味見をしてみたところ、実は柔らかめで辛みもありません。
鮮やかな赤と白のコントラストは、サラダやこれからのおせち料理の彩りや飾りにおススメです!
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プロの早業。次々と人参を引き抜いていく新居田さん
プロの早業。次々と人参を引き抜いていく新居田さん 人参の葉っぱについてお話し中、さいさいすーさん(右) 緑に映える鮮やかなやまぶき色、これまた美味しそう~! 新居田さんの手には『もものすけ』、後ろには『もものすけ』カブのレーンが遠くまで続く 手で簡単にリンゴでよく見る「うさぎ型」に皮を剥くこともできる

やらない後悔はしたくない。根底にあるのは仕事を楽しむこと

畑仕事の見学後は、新居田さんのもう一つの仕事場である倉庫に向かいます。

広くて大きな倉庫ですが、綺麗に整頓されていてとても使い勝手が良さそうです。
出荷のための野菜の検品場所や、袋詰めをしたりラベルを貼ったりと言った作業台や道具も、使いやすく整理されています。

新居田さんはそのまま奥へと進み、本日収穫した根菜類を野菜洗浄機にセット。
野菜に付いた土が洗い流され、茶色いゴボウが白くなっていきます。
綺麗になった野菜たちはこの作業場で仕分けや袋詰めされて、さいさいきて屋に出荷されます。

野菜の洗浄が終わると「実は、今年ビニールハウスを初めて建てたんです」と、今度は倉庫の外へと案内してくれました。
屋外で野菜を育てる露地栽培農法を採ってきた新居田さんですが、ハウス栽培への憧れがあったと言います。

「一度くらいはビニールハウスを建てて野菜を育てたい」。
今年夢を叶えた新居田さんは、「やりたいことはやる」のがモットー。

ビニールハウスを建てたことで、種から苗を育て、苗の養生にも力を入れることができました。
楽しみを見つけてコツコツと実現に向けて行動を起こす、それが独立農家として10年目を迎える新居田さんのスタイルです。
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整頓された仕事場
整頓された仕事場 野菜洗浄機でシャワーを浴びる獲れたて根菜たち 2021年の今年、初めて建てたビニールハウスのひとつ ハウスの中で大切に種から養生される苗たち ハウスで養生中の春菊の苗。雪の結晶の様
「収穫してから日持ちのする野菜もありますけど、一般的には野菜は新鮮な方が栄養価は高いんですよ」と、教えてくれた新居田さん。

ならば!と、帰宅した筆者は、新居田さんの畑で獲れた野菜を使って早速、調理に励みました。
手元にあるのはニンジン、ゴボウ。
と、くれば…『きんぴらごぼう』といきましょう!

調理を始めていつも思いますが、野菜の鮮度が良いと下ごしらえがとてもラクです。
皮むきも、包丁の入りも、野菜のみずみずしさでとってもスムーズです!

余りに美味しそうなので、生のニンジンを味見してみました。
まるで若い柿、野菜なのにフルーツのような甘さ!
これだけ甘味があれば、砂糖はいつもより少なめでOK。

カットした野菜を炒めながら砂糖、次に醤油をからめ、最後にごま油で香りづけ。
一品目の完成です!

食べてみると、思った通り少な目の砂糖でもいつも通りの甘さが出ました。
ゴボウもニンジンもしっかり歯ごたえがあって、噛めば野菜の旨味を感じます。
美味しい!野菜を食べている幸せを味わえる一品…!

続いては、新居田さんお勧めの『ブロッコリーの素揚げ』に初挑戦です!

ブロッコリーは水で洗って小房に分け、水気を切ったら準備完了。
熱した油(今回はオリーブオイル)で緑色がより鮮やかになるまで2~3分ほど揚げました。

実食の感想は…ブロッコリーとオイルの相性がいい!
いつもは、茹でるか炒めるかだけの調理だったので、素揚げにされて少し優しい食感になったブロッコリーは初体験です。
あら塩を付けるとクセになるほど美味しいです♪

最後の一品に選んだのは、『人参の葉っぱのかき揚げ』。
ニンジン葉の柔らかいところを使います。

柔らかい茎と葉を粗く切り(一盛りのニンジン葉に包丁を3回程あててザックリ切るぐらい)、千切りにしたニンジンと天ぷら衣を和えてジュワッと熱い油の中へ。

さて出来立てのかき揚げのお味は…サックリとした食感、ほのかなニンジンらしい香草の香り、言うまでもなく美味しいです!!
お味も上品、見た目の彩りもよし!ニンジンのかき揚げに大満足です。

食材は野菜のみでしたが、旨味のギュッと詰まった根菜料理で満腹になりました。
健康的な食事を採れたと言う満足度も大きい、豪華な食卓となりました。

新居田さん、ご馳走様です!!
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シャキシャキのニンジンとゴボウ
シャキシャキのニンジンとゴボウ 新居田さん畑のニンジン&ゴボウのきんぴら 新居田さんお勧めのブロッコリーの素揚げ 茹でたブロッコリーとも違う、オイルとの相性のよい滑らかな食感が味わえて美味! 人参葉のかき揚げ
今治で農家を営み、農業系YouTuberと言う異色の顔を持つ新居田さんは、仕事を楽しむ遊び心と、前向きなチャレンジ精神を持っています。
そして何より、試行錯誤のために分析と実行を怠らない勤勉家。

「野菜を育てる楽しさを、若い人にも知ってもらえたら」と、野菜を育てる傍らYouTubeの配信にも励んでいます。
「楽しいけれどネタ(動画のテーマ)探しは大変です」と、笑いながら話す新居田さんの、明るくときに孤高奮闘の姿にハマるチャンネル登録者が増えています。

YouTube番組『農業物語』を、この機会にぜひ皆さんも登録、ご覧になってみてくださいね。

そして、新居田さんのもう一つの夢は「農家の皆で足並みを揃えて、環境を考えた農業を広げていく」こと。
化成肥料のみではなく有機肥料を用いたり、少ない労力やエネルギー消費で野菜を育てることだったり、再生可能な循環肥料を農法に取り入れてみることだったり。

それは『安全で美味しい野菜を作ること』に繋がります。新居田さんが丹精込めて作る野菜は、今日もさいさいきて屋で販売中です。

新居田さんのYouTubeチャンネル『農業物語』はこちら

↓新居田さんのおススメ動画はこちら!↓
①「家庭菜園でプロ並みのジャガイモ栽培が可能になるよう紹介しています!」 

②「エコ農法、米ぬかを肥料として畑で安心して使う方法をご紹介」

③「枝豆栽培歴3、4年になる僕ですが、伝えたいことを何とか形にできた思い出深い動画です」

さいさいきて屋・過去記事はこちら

さいさいきて屋
開催日/9:00~18:00 定休日 1月1日~1月3日
開催場所/さいさいきて屋(愛媛県今治市中寺279-1)
駐車場/あり 230台
料金/なし
問い合わせ先/さいさいきて屋 TEL.0898-33-3131
URL/https://www.ja-ochiima.or.jp/business/saisaikiteya/saisaikiteya/
reported by 星歌子まい