瀬戸内海発信!地域と共に歩む美術展「Power of Art from SETOUCHI」
世代もジャンルも超えてつながるアートの世界
芸術大学の先生の作品や、生徒さんの卒業展と聞くと、なんだか敷居が高く感じませんか?
美術の“分かる”人しか立ち入ってはいけないような雰囲気を感じて、ついつい敬遠しがちに…。
ですが、そこには“推し”が詰まっているかも!?
11月6日から開催された「Power of Art from SETOUCHI」のギャラリートーク。
「作品のテーマは…」という難しいお話かと思っていたのですが、とんでもない!
作家さん一人一人の、作品に対する愛情や、好きという気持ちがひしひしと伝わってくる内容ばかり!
普段どんなことを考えて作品を作っているの? 自分の作品をどう思っているの?と、素朴な疑問を抱いたことはありませんか。
そんな普段は聞けないアーティストの気持ちや制作秘話をまとめてみましたので、この記事を読めばきっとあなたも作品を見ただけで魅力が伝わってくるはず!
さらに、今回の企画展は全作品写真撮影OK!
お気に入りの作品を見つけて、たくさん写真を撮っちゃいましょう。
SNSへの投稿もOKなので、ハッシュタグを付けて発信しましょう。
瀬戸内海をぐるりと囲むコラボ企画!
今回の企画展「Power of Art from SETOUCHI」は、今治の美術館(今治市大三島美術館・今治市玉川近代美術館)と倉敷芸術科学大学のコラボ企画です。
会場となるのは今治市の2か所の美術館「大三島美術館」と「玉川近代美術館」に、倉敷芸術科学大学の教員、在校生、卒業生の作品が並びます。
先生と生徒の作品が一緒に並ぶことも珍しいですが、絵画・ガラス工芸・彫刻・アニメーションと多彩なジャンルが一堂に集まった、とってもユニークな形式での展示。
美術工芸からスタートした「倉敷芸術科学大学」ですが、時代の中で生まれてきたメディアアート、アニメーションなどのコンテンツ、新しい先端メディアなど様々なアートを世界に発信していきたいという思いからこのような展示にしたそうです。
今回の企画展のポスターは、倉敷芸術科学大学の西田幸司講師が担当。
瀬戸内海を囲む「倉敷芸術科学大学」「大三島美術館」「玉川近代美術館」のコラボ企画ということで、瀬戸内ならではの風土とポスター全体から「Power of Art from SETOUCHI」というイベントの雰囲気が伝わってくるように、今回展示される日本画やデジタルアート、ガラス工芸や彫刻などの作品を入れてデザインされました。
こちらの大きな作品は、博士課程3年生の原田よもぎさんの集大成ともいえる作品。
「字のない物語を描く」というのをテーマに、つながりのある絵を意識して描いています。
平面絵画の中で違うことができないかな?と模索した原田さん。
大きな屏風も目を見張りますが、近くで実物を見るとあっと驚く仕掛けが。
筆で描いているとは思えないほど美しい模様が描かれています。
絵具をゆっくりゆっくり、丁寧に塗り重ねて凹凸を作り、銀箔を貼ることでこの美しい作品が出来上がります。
さらに、ざらざらとした質感を出すために絵具もオリジナルなんですよ。
海で貝殻を拾ってきて、砕いて絵具に混ぜたオリジナル絵具を作って塗っているので、より立体的な物語が表現されています。
“ただの真っ平らな絵じゃない絵画”というのを試行錯誤する中で、原田さんは屏風で表現するのがぴったりではないかという考えに出会ったそうです。
屏風も一から全て手作りで、大きなものだと1カ月くらいかけて薄い和紙を700枚ほど貼って作っています。
こちらの鹿が走り抜けていくような作品は、展示室内では一番古い作品だそうです。
燃えるような赤と力強い鹿がとっても印象的です!
続いて、大きな展示室には掛け軸や天井画など、“日本画”といえばイメージが思い浮かぶような伝統的な作品が並びます。
森山知己教授は、「日本画ってなんだろう?」「国の名前が付いた絵って、どんな絵?」と長年疑問を持って取り組んできたそうです。
たしかに、油絵は油を、水彩は水を、版画は版を…といったように画材によってジャンル分けされた絵とは少し様子が違って感じますよね。
先程ご紹介した原田よもぎさんの作品も、日本画なんですよ!
森山教授は、「日本画って分からないけど面白そう。実際にこの国にあったいろいろなものを一度描いてみる。そして、同じような物が描けたならば、その体験を通して日本人の心の良い所、大切にしてきたものを理解していく。それが日本画ではないか。」と日本画を通して長年日本という国、風土に向き合ってきました。
そんな日本画を見て、私たちも日本人の美意識を知っていくことができるのかもしれませんね。
磯谷晴弘教授の作品は、つい手を触れたくなるような、私たちの感覚を呼び覚ますような作品です。
水を張ったように見える120㎏のガラスの塊。
液体が固まった時のガラスの溶けた痕跡や振る舞い、液体の持つ力に魅せられ、「もっと大きくしたらどうなるんだろう。」と、どんどん大きな作品に挑戦するようになったそうです。
井戸を覗き込んだ時のゾクっとする引き込まれるような怖さ、底に何があるんだろうという欲望や衝動にかられるような作品ですよね。
「何かを起こさせる作品が残っていくのではないか」と語る磯谷教授。
自然の水を邪魔しないように、丸の形も自分で型を作らず、家の周りで拾ったどんぐりで型取りをしています。
人の作為的な部分を減らし、八百万の神を感じるような作品ですね。
この作品を覗き込んだ時、あなたは何を思うでしょうか?
くれぐれも、お手を触れないように注意してくださいね!
張慶南教授は、実は磯谷教授の教え子。
そのように、この企画展ならではの“つながり”がある作家や作品がたくさん展示されています。
小さい頃からガラスに興味があった張教授。
日本へ来てガラスを学んでいた頃、図書館の壁を背にして座りっぱなしで本を三日間見続けた時がありました。
壁が背中を強く支えてくれているという感覚から“壁のありがたさ”に気付き、その時、初めて壁のことが気になり、“壁”をテーマにやっていきたいという思いが固まったそうです。
写真の作品は、『背中見せる男』。
「ある日、温泉で出会った80歳を超えた老人の、広く筋肉のついた背中を見たことがあり、その背中こそが今の日本をつくった感謝すべき背中であると思った」と語る張教授。
その感謝の気持ちを作品にしました。
また、壁には隙間もありますよね。
その隙間をテーマに型を造り、窯の中880℃でガラスを溶かして型に流す、とてもダイナミックな作品です。
隙間や穴を持つ人間の弱いところを形にして、その隙間や穴を見つめることで、人と人との間にある隙間と穴を癒し、埋めていきたいという意味を持たせています。
美しい作品にうっとりと目を奪われると同時に、人生を考えさせられる作品ですね。
そして今回、オープニングセレモニーで展示された「バルーン天神ナマズ」
2020年8月に岡山県天神山文化プラザに展示されていたもので、長さ9m幅4mほどある大きな作品です。
制作者は大屋努准教授と、藤澤稔さん、坪井優介さんの共同制作です。
天井から吊るしていた作品を、今回は床に設置して公開されました。
目の前で見る大きなバルーンナマズは大迫力ですよ!
また、センサーに手をかざすだけで光り方が変わる非接触型操作ができます。
コロナ禍でも楽しめる仕掛けですね。
音にも反応して、目となる白い光がきょろりと動く姿はとても可愛らしいので、ぜひ見て感じて欲しい作品。
尾ひれには筋肉の役割をするように空気が送り込まれる部屋があり、そのおかげで生きているようにひらひらと優雅に動いています。
残念ながら大三島美術館では常設展示ではないため、次回こちらの作品が見られるのは12月11日(日)になります。
同日10:00~11:30/13:30~15:00は、バルーン天神ナマズの制作者によるワークショップも実施されますよ。
こちらも参加してみてくださいね。
大三島美術館 ワークショップのお申込みはこちら
もう一つの会場となる「玉川近代美術館」でも、バルーンアートが展示されています。
こちらの「たけのこバルーン・イルミネーション」は、開催期間中ずっと展示されているので、たけのこのヒダのところまで再現されている細かさを、ぜひ間近でじっくり観察してみてください。
「大三島美術館」と「玉川近代美術館」の両方に展示されている作家もいますが、どちらかでしか見られない作家もいます。
また、作品はどちらかでしか見られないので、どちらも見に行くのがオススメです!
ジャンルや作家によってがらりと雰囲気が変わるので、きっとお気に入りの作品と出会えますよ。
「大三島美術館」の瀬戸内の島ならではの長閑な雰囲気と、「玉川近代美術館」の豊かな山間に佇むひっそりとした雰囲気のどちらも作品を鑑賞するのにぴったりの美術館です。
静かに作品と向き合っているとついつい触れてしまいそうになりますが、どの作品もお手を触れないように注意してくださいね。
その代わり、たくさん写真に収めてSNSでシェアしちゃいましょう!
田丸稔教授の彫刻作品は、「玉川近代美術館」でしか見られません。
「人の形を作っているときは、神と近しいような、壮大な気持ちになって没頭して作っている。けれど、会場で自分の作品を見るとあれ?と思うことが多くてみんなに見てもらうのはドキドキする。」と、とてもチャーミングなお話をされていました。
「HIME+YOU」という作家名で出品された土井原由子特担准教授の作品は、デジタルやフィギュアなどが中心で、“好き”がいっぱい詰まっています。
小さい頃から可愛い雑貨や漫画が好きで、コミックマーケットという自分の作ったグッズを売れるイベントを知り、夢中でいろいろな物を作って“好き”なものを突き詰めて来たそうです。
フランスや台湾のイベントにも参加されるほど!
可愛らしいキャラクターの表情から、土井原由子特担准教授の情熱が伝わってきます。
「玉川近代美術館」にも音に反応するアニメーション作品の展示があり、プロジェクションマッピングのイベントも開催されます。
12月3日(土)17:30~19:30限定のイベントで、20分おきに約5分間上映されます。
どんな作品が上映されるか楽しみですね。
世代もジャンルも異なるアーティストが瀬戸内海という自然で繋がって織りなす展覧会。
アートとサイエンスを大学内だけでなく、地域全体で育てていこうという教育的な第一歩としても大きな意味のある展覧会です。
ぜひ美しい瀬戸内の豊かな自然を堪能しながら、芸術と科学にも触れ、これからの日本に思いを馳せてみてくださいね。
■ Power of Art from SETOUCHI 倉敷芸術科学大学・今治市大三島美術館・今治市玉川近代美術館 協同企画展
開催時期/2022年11月6日(日)~12月21日(水)
開催場所/今治市大三島美術館、今治市玉川近代美術館
開館時間/9:00~17:00
住所/
愛媛県今治市大三島町宮浦9099-1(今治市大三島美術館)
愛媛県今治市玉川町大野甲86-4(今治市玉川近代美術館)
駐車場/あり
料金/【一般】520円【65歳以上】420円【18歳未満または高校生以下】無料
お問い合わせ/
0897-82-1234(今治市大三島美術館)
0898-55-2738(今治市玉川近代美術館)
今治市大三島美術館 公式HPはこちら
今治市玉川近代美術館 公式HPはこちら
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