【一福百果・清光堂】 三代に渡り時代を超えて愛され続ける和菓子を訪ねて 【愛媛/今治市】

  

一口食べるごとに幸せを運ぶ和菓子たちそのルーツに迫る

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こちらの青のグラデーションが印象的な逸品は、今治の老舗和菓子店「清光堂」の3代目益田寛規さんが製作した「透青」という和菓子です。

見た人を一瞬で虜にしてしまうほど、神秘な美しさ…!
受け継いできた想いと、ふるさとの情景を形にしたいという一心で誕生しました。

しかし、この美しい和菓子ができるまでの道のりは平坦ではありませんでした。
1代目の伝統、2代目の革新、その2つを融合しながら、今までにはない発想を取り入れて和菓子を作り上げる3代目。

今回は、清光堂の時代を彩る和菓子を、代表取締役の益田智恵さんにお聞きした貴重なエピソードと共にご紹介していきたいと思います。

今治の歴史と文化が交差する桜井町にある清光堂

清光堂は、昭和27年に地元愛媛の素材を生かした和菓子作りを掲げて益田光俊さんが創業しました。
その後、益田智恵さんの夫である2代目のビル・リオングレローさんがグアムから来日し、今の清光堂につながる新しい和菓子のあり方を確立します。

現在は、益田寛規さんが初代と先代の技術や想いを受け継ぎながら、3代目としてお店の味を守っています。

清光堂がある今治市桜井町は、透青のイメージともなった白砂青松の景勝地である志島ケ原をはじめ、菅原道真とゆかりのある網敷天満宮、江戸時代から盛んだった漆器業商船「椀船」の発祥の地でもあります。
昔から愛媛の海上交通・文化の拠点として今治の人々の生活を支えてきました。

創業から70年、地元の人に愛され続ける「椀舟」ふるさとの味

昭和30年ころから地元の銘菓としても知られている初代が考案した「椀舟最中」。
まさに今の清光堂の基礎となる和菓子です。

「椀舟は江戸時代後期頃からに桜井で生産された漆器を瀬戸内沿岸や大阪、九州に運んだ帆船を模った最中です。当時、漆器は高級品でしたので、職人の想いをのせて運ぶ宝船のような存在でした。そんな桜井の歴史を後世に伝えたいと初代が考案したのがきっかけです。」

――なるほど。和菓子に込められた想いと歴史を感じます!この船の形も珍しいですね!

北海道十勝平野のしゅまり小豆を使用し、シソが練り込まれている独創的な最中。
創業当時から今治市民に親しまれてきた味をさっそく堪能してみました!

まず、一口目からこだわりを感じます。
正直、シソとあんこってどちらも強いので喧嘩しちゃうのではないかな?と思っていたのですが、そんなことはありません。
シソの風味がふんわりと広がり、そこにぎっしりと詰まったあんこの絶妙な甘さがマッチして、やみつきになってしまいます。

独特な形をしている最中なので、食感の違いも楽しむことができました。

「椀舟は今でも地元の方がよく買いに来てくれます。パリッとした食感と香ばしい風味が特徴です。今の清光堂の原点ともいうべき和菓子ですね。」

桜井町の歴史や想いも込められていて、見た目も抜群に美しい椀舟最中。
第16回「全国菓子大博覧会」では、金賞を受賞されています。
自分で食べるのはもちろんのこと、贈答品、お土産としても持っていきたい銘菓ですね。
今治市民に愛され続けている理由がわかる逸品でした。

食べた人を幸せにする「一福百果」夫婦二人三脚で作り上げた絆の味

地元愛媛の名産品みかんと和菓子の出会いから始まったみかん大福は、2代目のビルさんが考案した革新的な和菓子でした。

数多くのメディアにも取り上げられ、清光堂が全国的に知られるきっかけにも繋がった大福です。
今や椀舟と並ぶお店の看板商品となっています。

「実は2代目が和菓子職人を目指したのは40代の頃。日本語もまだあまり喋れないまま幼い子どもたちを連れて、グアムから家族で来日しました。」

――日本の生活もまだ慣れていない中で、和菓子の修行もされていたのですね。

「そうです。私が英語で通訳をしながら、毎日、夫婦2人で和菓子作りをしていました。何度も失敗を繰り返しながら、時には、作ったものも泣く泣く捨てる日もありましたね。」

また、当時はグアム人のビルさんが和菓子職人をすること自体がめずらしく、心ない言葉を投げかけられ、挫けそうになった時もあったそうです。
しかし支えてくれる家族やお客さん、そして和菓子の技術を惜しみなく伝えてくれる同業者の職人さんたちのおかげで、乗り越えることができました。

――夫婦2人で他の和菓子店さんへも修行に行かれながら、職人への道を極めて行かれたそうで、まさに二人三脚ですね。

「毎日必死でしたね…。ただ、そんな中でも大福だけは絶対に失敗しなかったんです。」

――もしかして、それが一福百果に…?

「ええ、そうです。そこから愛媛の名産品みかんを入れてみたらどうかという発想に繋がりました。」

愛媛のみかんを丸ごと包んだ斬新なアイディアは、ビルさんの大福作りから着想を得たそうです。
しかし、新商品の開発が決まったのはいいものの、ここでも一つ問題点が浮上しました。

「実は、大福に合うサイズのみかんを探すことが大変でした。」

清光堂のみかん大福は、小ぶりのみかんを使用しています。
これが普通のみかんとは違い農家さんの規定サイズ外だったそうです。
さらに、一つ一つ手作りのため、大量入荷するというわけにもいかず、県内の農家を巡りながら何年もかけて交渉を重ね、理想のみかん大福を作り続けることができました。

さて、そんな愛情のこもったみかん大福!
そのお味はというと…。

もっちりとした求肥にみかんの甘さを引き立てつつも、脇役には収まらない上品な白餡。
無駄なものが一切入ってない贅沢な和菓子です。
そして食べるときにピッタリと口に収まるくらいの程よいサイズがたまりません。
まさに黄金比だと思いました!

「みかん以外も季節の新鮮な果実、その土地土地で育った美味しいフルーツを使い、食べた人が幸せになってもらえるように想いを込めて作っています。」

朝日新聞や毎日新聞、地元のテレビ番組をはじめ、ズームインでも取り上げられたみかん大福。
19年たった今でも多くの人々に愛され続ける銘菓となっています。
 

清光堂の原点と未来をつなぐ「ひる凪」伝統と革新の味

最初にご紹介した透青は、和菓子ブランド「ひる凪」のひとつです。
ひる凪の由来は、綱敷天満神社の境内の梅林から望む瀬戸内の美しい昼の凪からインスピレーションを受けてつけられました。

3色の色合いでグラデーションをつけて志島ケ原の穏やかな海を表現した「透青」。

ひょっこりと顔をのぞかせる小梅がとても愛らしく、しんしんと降る雪が梅林の梅の花に積もった様子をイメージした「雪の下」。

柔らかなに光に包まれているような色合いとフォルムにうっとりしてしまう、宇和島産きぬ青のりを使用し三日月をモチーフにして作られた「月影」。

そんな3種類のひる凪。
それぞれ違った個性を放っており、どれをとっても作品のように美しく今までにはない和菓子となっています。

「新しく考案する和菓子は、今までのものとは、全く違うものを作らなくてはいけないと思っていました。そして、そんな時にたまたまご縁をいただいたのが、和菓子作家の坂本紫穂さんです。」

――まさに運命の出会いのようなタイミングですね!

「私たち以外の視点からも清光堂の和菓子の可能性を広げていきたいと思っているところでした。ひる凪は、坂本さんがイメージしたものを、3代目が一生懸命、形にしていった和菓子になります。中でも、透青は世に出すまで1年かかりました。」

――とても美しい和菓子だとは思っていましたが、そんなにかかったのですね!

「海から砂浜をイメージしたグラデーション、梅の酸味、食感、その全てが手探りで、坂本さんとミーティングを重ねること11回。何度もやり取りを重ねて、最後には、これだと胸を張って誇れる和菓子を作り上げることができました。」

今回は、そんな製作まで1年かかった透青をいただいてみました!
一口食べると、梅の香りと白餡の甘みがじんわりと広がっていきます。
しっかりとした食感と優しい後味は今まで食べたことがない爽やかな感覚です!
どの季節でもおすすめですが、夏を連想するような和菓子でした。

また、個人的に感動したのは、透青の表す海の色。

季節、時間、人によっても見方が変わる海。
さらに、見た人の感情によっても印象が違う不思議な色です。

そんなとらえにくい海の色を絶妙に再現している透青。
これだけの情景を落とし込んだ和菓子があったのかと素直に驚きました。
まさに3代目の想いと清光堂の歴史が詰まった逸品です。

昭和、平成、令和と時代をつなぐ和菓子を作り続ける清光堂

人気商品をたくさん世に送り出しながらも、新しい可能性を常に模索し続けている清光堂。
最後に智恵さんから素敵な想いをお聞きしました。

「椀舟で、地元の人たちに支えられ、信頼をいただきました。その信頼があったからこそ一福百果は、さらに多くの人とつながりを持つことができたと思います。そして、ひる凪は、清光堂の原点でもあるふるさとへの愛と同時に、新しく未来を切り開く想いも詰め込みました。多くの方に食べていただけると幸いです。」

ふるさとの歴史と人々の営みを形にして後世に残していきたいと清光堂の基礎を作り上げた初代。
その技術を受け継ぎながら、多様に変化する時代において、新しい和菓子の可能性を切り拓いた2代目。
すべての原点に立ち返りながら、この先の未来も見据えて、ふるさとへの想いをひたむきに形にした3代目。

それぞれの和菓子の姿形は違えども、どれも地元への愛や、食べる人のことを考えながら丁寧に作られてきたのだと確信しました。
日本のうつろいゆく季節、和のこころから生まれた伝統文化である和菓子。
いつの時代も私たちに幸せを届けてくれる大切な存在です。

そんな多くの人に愛され続ける和菓子を作る清光堂、今日も多くの人に幸せを届けています。

■ 一福百果・清光堂
住所/愛媛県今治市郷桜井3丁目4-5
TEL/0898-48-0426
営業時間/10:00〜18:00
定休日/日曜日、月曜日
禁煙・喫煙/禁煙
クレジットカード/VISA・Master・アメリカンエキスプレス
駐車場/あり
一福百果・清光堂 公式HPはこちら

reported by 柴原おかめ
ひめトレイル