【フクスケベーカリー】 90年を超える歴史が紡ぐ、老舗パン屋の物語 【愛媛/今治市】

  

3代目が語るパン作りに込めた 「家族の想い」

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朝の通勤ラッシュが始まると、ひときわ賑やかな常盤町の通り。
そんな毎日の風景を見守るかのように佇む小さなパン屋「フクスケベーカリー」。

お店の前を通るとふわっと温かい香りが立ち込める焼きたてパンは、ここでしか味わえない「懐かしい味」を求めて立ち寄る人も多く、地元今治に愛されてきた老舗のパン屋です。

3代目の店主武田さんご夫婦と、4代目息子さん達は創業当初からの手作りにこだわり、変わらぬ味を守り続けています。
初代の想いを紡ぎ、今治市の歴史と共に歩んできた物語を覗いてみませんか。

昭和2年創業、パン作りはここから始まる

日露戦争が始まった明治37年、初代の奥様である武田ツルヨさんは養女として松山市にあるパン屋で幼少期を過ごします。

当時、全国初の捕虜収容所が松山に設けられ、収容された約6000人のドイツ兵の食事に合ったパンを作るため、捕虜のドイツ人に直接パン作りを学ぶなど「戦時下とは思えないほど穏やかな交流があった」と祖母から聞かされたことがあると武田さんご夫婦が話してくれました。

その後今治市出身の武田福一さんと出会い、嫁いだ際に学んだパン作りのレシピをいかして昭和2年に創業。

歴史に残る貴重な資料【いまばり名産】からもわかるように、創業当初は「福助パン」からはじまり、店名の由来は初代“福一さん”の名前が取り入れられています。

当時の店舗は今治市の広小路にありましたが、昭和20年に「今治空襲」に見舞われ、焼け野原へと変わり果ててしまいました。

しかし福一さんとツルヨさんはもう一度2人で立ちあげ、戦後は旭町に移転しパンのほかにも農林水産省を受賞した「唐子饅頭」など今治の銘菓として人々を魅了してきました。

大切に保管された写真に写るのは、当時の店舗前で撮影した初代の武田福一さんと3代目店主の武田均さんです。

そうして2代目である父の武田進さんが「福助パン」の歴史と味を受け継ぎましたが、不慮の事故により急遽別れを迎え、叔母にあたる武田和子さんが引き継ぎます。

その時、現在の常盤町に移転し昭和35年「フクスケベーカリー」として改称されました。

一度食べたら忘れられない! 伝統が詰まった名物「ドイツコッペ」

初代「福助パン」の時代から引き継ぐ、名物“ドイツコッペ”は現在でも人気ナンバー1!
皮はパリッと中はもっちりとしていて、嚙めば嚙むほど味わい深くドイツコッペを求めて来店する方も多い逸品です。

常時焼きたてが並べられそのままのプレーンでも美味しいですが、約5種類の自家製クリーム「小倉ミックス」「チョコ」「抹茶」「カスタード」「バタークリーム」を間に挟むシリーズも大人気です。

この三層になった切込みが美味しさの秘密で、クリームとドイツコッペが噛んだ瞬間に合わさるハーモニーを考え、全て手作業で作られています。

またこの頃から、給食パンや高等学校での購買もはじまり、船で島へ移送し販売するなど幅広く今治市民の「食文化」に寄り添ってきました。

学生の時に通っていた方が帰省の際に立ち寄ったりする場面も多くみられるほど、思い出の味として深く残っています。

3代目の覚悟と思いを込めた「天然酵母」

初代の思いを繋ぎ順調に思えましたが、2代目の父に代わり引き継いだ叔母には跡取りがおらず、事業継続の危機もありました。

当時は「正直、跡取りになるつもりはなかった」と東京で就職し、パンの世界とは全く違う生活をしていた3代目店主の武田均さん。

奥さまの悦子さんと結婚し、2代目の叔母から打診もあり、お店を受け継ぐ決心をしたのは27歳の時でした。

地元今治に戻り、当時は早朝の仕込みと子育ての両立に必死で過ごし「サラリーマンの方が良かったかな」と、心の中でよぎることもあったと笑顔で話す姿に当時の努力と苦労が伺えます。

パン作りに関しては、やはり幼いころから祖父や父が作っている姿を見ていたため、自然と手が動き取り組めたと話します。

当時今治では取り入れられてなかった「天然酵母」に目を付け、酵母菌を使った生地作りに挑みますが、“膨らまない”など試行錯誤を乗り越え1年かけて「自家製天然酵母」が完成しました。

3代目と4代目の力で作りあげる新時代へ

現在は4代目長男の士郎さんが本店の「フクスケベーカリー」、次男の直樹さんが新居浜店にて「ブーランジェリーフクスケ」を、伝統の味を守る事はもちろん新しい時代に移り変わろうとしているのも魅力の一つです。

また息子さん達も決して最初からパンの道に進んだわけではなく、気が付くと同じ思いを持って自然と「家族」が集合し、一緒に取り組んでいたというのだから不思議!

長男の士郎さんは大学卒業後、京都に就職し様々な経験を得た後、今治に帰省した際に父・均さんの背中を見て「継ぎたい」という気持ちが強くなったと言います。

パン作りの技術を磨くため、京都のホテルで修業に励み、現在「フクスケベーカリー」本店を支えています。

次男の直樹さんは大学卒業後、調理師専門学校に就職し、広報の仕事をしている中で自然とパンの魅力に惹かれていきます。

26歳でパンの世界に入り岡山、大阪、フクスケベーカリーで修業後、2011年新居浜市に「Boulangerie FUKUSUKE」(ブーランジェリーフクスケ)をオープンしました。

その時本店から「自家製天然酵母」を受け継ぎ、また自分でおこした「ルヴァン酵母」と「レーズン酵母」など種類によって使いわけ、平日は80種類、週末は100種類ほどのパンが並びます。

また看板メニューの「パン・ド・メテイユ」は、フレンチの鉄人・坂井宏行シェフのレストランでも採用されるなど絶賛の一品!

薄切りにして表面をパリッと焼いていただくと添加物が入っていないからこそわかる、小麦自体の自然なおいしさを感じることができます。

現在3代目の父と同業者になった今、パン職人の大変さがわかり「今の年齢になっても現場に立つ父親の偉大さに気づけた」と話してくれました。
無添加生地、フィリングまで手づくり一択のお店は新居浜でも人気を誇るパン屋です。

これからも美味しさを届けたい! 愛され続けるパン屋

「飽きないように」という思いから常時100種類のパンが並び、メロンパンやカレーパンは大人から子供まで幅広い層から大人気!

他にもハード系では明太フランス、旬を生かした季節限定のパンや新作にも力を入れ、少しでも喜んでもらえるように工夫されています。

フクスケベーカリー本店では、毎月第3金曜日に20%オフセール!
いつも食べているあの味から、まだ食べた事のない商品も気軽に買ってほしい思いで開催しています。

またフランスボルドー地方の伝統菓子「カヌレ」は、長女の明子さんが担当しており、表面はカリッと中はもっちりとした人気の焼き菓子です。

フクスケベーカリーでは“カヌレブーム”が来る以前から製造されていた、知る人ぞ知る人気商品!
木・金・土の限定販売で、完売することも多いので予約もオススメですよ。

お土産にも好評の「固焼きシュークリーム」は、サクサクとした外側のシュー生地と中にたっぷり入ったカスタードクリームのバランスが絶妙で大人気!

またクリスマスにむけて限定商品【シュトーレン】も販売スタート!
レーズンマスカット・ドライリンゴ・マンゴースライス・クランベリー・いちぢく・マカダミアなどぎっしり詰まったフクスケベーカリーこだわりの逸品です。

従業員スタッフと真ん中でにっこり笑う3代目の奥様悦子さん。
――最後に今の思いを聞きました。

「受け継いだ時は本当に大変だったけれど、家族やスタッフと一緒に切磋琢磨できる職場も美味しさの秘密だと感じます。

3代目の主人、4代目の長男次男ともにパン作りの個性はあるけど、家族みんな“味覚”が似ている、美味しいものを一緒に美味しいと思って作れるのが幸せです」

創業100年を迎えるパン屋の物語には、時代の波を乗り越えながらも、変わらず守り続けられた味と信念が込められ、世代を超えて愛され続ける理由があります。

先代の想いを紡ぐ「フクスケベーカリー」、今日も焼きたてのパンいかがですか?

  • ■ 有限会社フクスケベーカリー本店
  • 住所/愛媛県今治市常盤町5-6-4
  • TEL/0898-23-3443
  • 営業時間/8:30〜18:00
  • 定休日/日曜日、月曜日
  • 駐車場/あり

reported by なづな
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