【かすうどん とんこ】 新たな故郷へ 「親子の夢が実る場所、田舎での暮らし」 【愛媛/西予市】

  

山奥の秘境で出会う、忘れられない特別なひととき

0

平成16年小さな5つの市町村が合体し、愛媛県で2番目に広いまちとして誕生した「西予市」。

西は宇和海、東は四国カルストまで広がり標高差1,400mの自然を見渡すと、海のまち、里のまち、山のまち、どこか懐かしい景色があふれています。

四国カルスト・惣川方面に向かう県道32号線、野村町予子林の「秘境」にあると言っても過言ではないほど山奥の中、ポツンとあらわれるお店【かすうどん とんこ】。

人通りは少なく山に囲まれた自然の中で、なぜこの場所を選び開業したのかお店を訪れてみると、五感を満たしてくれる“絶品うどん”と、新たな土地に移住し挑戦する中村さん親子に出会うことができました。

夢は「田舎暮らし」、息子と一緒に再出発!

明るい笑顔が印象的な中村壽美さんと中村浩一朗さん親子は2023年の5月に京都から移住し、現在野村町惣川で暮らしています。
なぜ京都を離れて愛媛県西予市に移住したのか、興味深いですよね。

壽美さんは高知県出身で、大阪・京都と約40年間都会で暮らしながら長期休みになると、実家の土佐清水市や、妹の家族が暮らす西予市宇和町に幼い浩一朗さんを連れて訪れていました。

その時の海や山に囲まれた豊かな自然の中でのんびりと過ごす時間、また気軽に「釣り」が楽しめるといった最高のロケーションなど、浩一朗さんは忘れることなく心に刻まれていきます。

小学生の頃から将来の夢は「田舎暮らしすること」と断言するほど、愛媛県は“自分が想像する田舎像”にぴったりの場所だと当時から感じていました。

コロナ禍があけ、大阪で行われた移住フェアイベントに参加した際、西予市地域おこし協力隊のパンプレットと出会います。

それを見た浩一朗さんは何の迷いもなく移住を決心し、また壽美さんも定年退職を迎えるタイミングだったこともあり、一緒に移住することを決めました。

「おかんも何かせなあかん」

浩一朗さんは地域おこし協力隊として「林業課」で活動し、新しい一歩を踏み出します。
愛媛の中でも田舎山奥の惣川、はじめは右も左もわからない、息子が一ヶ月研修で不在の時は、少し寂しさを感じた夜もあったと壽美さん。

慣れない環境で前向きにチャレンジする浩一朗さんに、「おかんも何かせなあかんで」とアドバイスが心に響き、自分には何ができるのだろう…と考えるようになりました。

大阪名物の「かすうどん」なら、大好きで自宅でもよく作っていたこともあり、思いきって惣川夏祭りのイベントに出店することを決めたのが大正解!
愛媛では珍しい「かすうどん」は、地元の人々の心をつかみ喜んで食べる姿を目の当たりにしました。

その後、アンケートや住民の方から、“もう一度食べたい”、“お店をしてほしい”など嬉しいリクエストの声が届きます。
「これなら私にもできる」と、移住から半年後にはお店を出すことを決意し、2024年3月25日【かすうどん とんこ】をオープンしました!

愛されて育つ憩いの場、みんなの心の拠り所

大阪発祥「かすうどん」の主役とも言える“かす”は、牛腸をじっくり脂が抜けるまで時間をかけて揚げた食材です。

この“かす”を加えることで、深いコクと豊かな旨味、出汁の持つ繊細な味わいが引き立ち、この絶妙なバランスがシンプルながらも飽きのこない魅力を生み出しています。

かすうどんの濃厚なスープは食べるたびに香りが立ち、「塩むすび」と一緒に食べると相性抜群!
実はこの「塩むすび」は、お客様からの提案で誕生した人気商品です。

あっさりした味が好みの方には、茎わかめの食感が珍しい「梅わかめうどん」がおすすめ。
かすうどんとは、また異なる出汁の美味しさの秘密は乾燥椎茸!

地元予子林の特産品ブランド「霧源」を使い、惣川産の梅干しをのせた逸品です。
「おいなりさん」は刻んだ新生姜と胡麻であっさり美味しく、手作りの温かみを感じる一品。

店内は古民家の雰囲気が落ち着き、いつもとは違うゆっくりと流れる時間。
「ここに来たら、心も体もリセットできる」という声も多く、食事だけではなく、珈琲一杯でもひと休みできる憩いの場として愛されています。

決してお店が多いとはいえないこの町で、地元の人にとっても、また遠方から訪れた人にとっても、人と触れ合える場所であってほしいと思いが込められた店内。

交換日記・地域の名産品などが置かれ、訪れると新しい発見と癒しのひとときを感じることができますよ。

「地域おこし協力隊」として担う役割と可能性

山間部の小さな町での生活が始まり、地域おこし協力隊での活動では「林業」の担い手として惣川地区を中心に技術を習得し、地域行事やボランティアにも参加しながら充実した生活を送る浩一朗さん。

地域おこし協力隊として、単に仕事をするだけでなく、地域の文化や風習を学び、関西で身につけたコミュニケーション能力で、地元の人々との絆を深め「若い力を地域に引き入れてくれて嬉しい」と言われることも多く、その期待に応えようと日々努力しています。

浩一朗さんの目標は、地域の林業をより発展させること、若い世代が林業に興味を持つきっかけを作りたいと、意気込みます!
地域の観光資源として森林を利用した活動、林業課の職員と熱心にアイデアを出し合う姿には感銘を受けました。

「山のまち」で、見つける春夏秋冬の楽しさ

夢である「田舎暮らし」を叶え、今の生活は自分にとってはとても「贅沢」と表現する浩一朗さん。

その理由の一つに、薪でお風呂を沸かしながら、火鉢で“焼き鳥”を焼くなど「都会にいたらできない日常を楽しめる」と語ってくれる姿は笑顔に満ちあふれています。

実は当初のお風呂は、電気式給湯器でしたがそれを取り外し、薪焚きボイラーを新たに設置したと聞き驚きをかくせません!
現場で本来捨てるはずの木材を活かして、薪風呂に活用しています。

春になると山菜収穫はもちろん、地域の人々と共にたけのこ掘りに行き、大量に茹で上げるのも「山のまち」ならではの楽しさが満載!

雪が積もった冬の日には、「かまくら」や「雪ダルマ」を作るため、自然に子どもたちが集まり心温まる交流ができるのも魅力の一つです。

山奥の隠れ家、秘境の中で見つけた幸せな時間

これからも【かすうどん とんこ】が遠方から訪れた人、地元の人にとっても再開の場であるように、たくさんの新しい出会いにわくわくしながら毎日を過ごしています。

また中村さん親子は、「地域おこし協力隊」に興味を持っている人たちに向けて、自分たちの経験を共有し、新しい挑戦を応援する活動も始めたいと話してくれました。

長く住んだ京都には「大切な人」もいて、離れるのは寂しさがなかったわけではない。
でもここにきたからこそ「本当に大切な人は、どこにいても会いに来てくれる」と、知ることができたと優しい笑顔で涙を浮かべる壽美さん。

都会の便利さや速さとは対照的に、秘境の温かさはゆっくりと、しかし確実に訪れた人の心に響いています。

  • ■ かすうどん とんこ
  • 住所/愛媛県西予市野村町予子林7321-1
  • TEL/070-6921-3388
  • 営業時間/11:00~16:00
  • 定休日/火曜日・水曜日・木曜日
  • 駐車場/あり

reported by なづな
ひめトレイル